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イラスト詳細

ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤの藤沢によるおまけイラスト

作者 藤沢
人物 ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ
イラスト種別 おまけイラスト(→元発注イラスト
納品日 2022年12月24日

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イラストSS

 世界には、本当と、嘘と、真実の三つがある。
 それは、誰の言葉だっただろうか。

 紅い花束を抱えたヴァレーリヤが、深い雪を踏みしめる。
 空はもうすっかり青いというのに、まだ溶けきっていない雪がこんなにも多い。
 ここがどんな場所だったのかを忘れさせるほどに。
「ヴァリューシャ先輩」
 囁くような声が、あるいは雪に吸い込まれて消えそうな声がして振り返ると、黒い神の司祭が立っている。
「アミナ……」
 今年のシャイネンナハトは、この二人だけだ。
 いつもは一緒にいた彼も、彼も、彼女も……いまはどこを見回してもいない。
 いや、それは『真実』ではない。
 ヴァレーリヤの隣に立ったアミナが、雪の中ぽつんと立っている石を見つめていた。
 石はまるで墓石のようで、しかし誰の名前も刻まれていない。
「ごめんなさい司教様、ちょっと間が空いてしまいましたわね」
 そう呟いたヴァレーリヤが墓石へと歩み寄ろうとした、その時。
「ああ、待ってくれ」
 遠くから声がした。
 二人で振り返ると、黒い軍服を纏った男が小走りにやってくるのが見える。
「ボリスラフさん……今は、少佐でしたかしら」
 ヴァレーリヤが彼の名を呼ぶと、ボリスラフは苦笑交じりに彼女たちの前で足を止めた。
 雪の上を小走りになったせいか息が少しだけ乱れ、白く煙って空に消えていく。
「よしてくれ。『この場所』でそんな」
 ボリスラフの言わんとすることを、ヴァレーリヤもアミナもよく分かっている。
 だからそれ以上の言葉を求めず、ただ『行きましょう』とだけ言った。

 石は、確かに『墓石』であった。
 上に積もった雪を払い、優しく微笑みかけるヴァレーリヤ。
「一時はどうなることかと思ったけれど、意外と上手くやれていますわ。これからも見守っていて下さいまし」
 ボリスラフはその隣で、目を閉ざすこと無くじっと墓石を見つめている。
 これが『誰』のものなのか。
 彼女たちは知っている。
 聖女アナスタシア。
 そう、『聖女』アナスタシアの墓である。
「聖女様、どうか見守っていて下さい。貴女の理想は、私が……」
 雪上であるにも関わらず膝を突き、アミナは両手を組んで祈りの姿勢を捧げた。
 全員が目を閉じる。そこにいる誰かを想うように。
 そしてそのまま。
 消え入るような声でアミナが言った。
「先輩……本当に、私でよかったんでしょうか。私なんかで」
 答えずにいると、また再び。
「私は怖いんです。何も出来ない私が、今のまま皆の象徴であることが。いつか誰かが、こんなに脆弱な私を崖の下に突き落としてしまうんじゃないか……いいえ、むしろ、そうなったほうがいいと、誰かが想っているんじゃないかって」
 目を開ける。
 ふと見ると、アミナはそれまで嘘だったように笑っていた。
「弱音なんて吐いたらダメですよね。私達はこれからなんです、がんばりましょう、先輩!」
 そしてヴァレーリヤは。
「ええ、アミナ。必ず力になりますわ」
 歩き始める二人。その背を、ボリスラフは見つめていた。
 もう二度と、あの日をくり返すまいと。

 ※SS担当者:黒筆墨汁

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