イラストSS

「……改めて。突然の申し出にも関わらず、本日は歓待していただき感謝する。情報交換の面においても商談の面においても実に有意義な時間だった」

　素朴で温かみのある内装の店内で、グラスの中の赤ワインを傾けながら女はそう言った。すらりとした体躯に軍装を纏ったその女は嫋やかさよりも鋼のような『強さ』を滲ませており、顔に大きく残る傷跡がなによりもその女の苛烈な人生を物語っている。しかしながらその芯の通った美貌は自信に満ち溢れ些かの瑕疵も無く、凛としてそこに存在した。彼女の名はジャネット＝キャラハン。深緑にありて、そぐわぬ鉄の兵器を好む『鐵の女傑』である。

「いやいや、こちらこそ。興味深い情報をいくつか聞けたよ」

　その対面に座る人物は周囲から武器商人と呼ばれている。牛ほほ肉の赤ワイン煮込みを上品に口に運ぶソレは見た目こそ人間らしい姿をしているものの、性別から実年齢、来歴に至るまで殆どが曖昧にして掴みどころのないモノだ。確かなのはソレがイレギュラーズであること、全国に支店を置く商人ギルド・サヨナキドリの顔役として活動しているということくらいだろうか。

「ところで、私のアレの働きはどうだろうか？　粗相があれば、その時は……」
「フォルネウス……ああいや、クロサイトはよくやってくれているよ。魔術の扱いも上手だしね」

　彼女達の話題に挙がったのはジャネットの夫にしてソレの眷属たるクロサイト＝Ｆ＝キャラハンのことだ。実際ソレから魔術を手解きされた彼はサヨナキドリ内の魔術関連の業務を手伝うことがあり、順調に力をつけ始めている。なお当の本人は、

(まさかジャネットが直接、ご主人様の元へ挨拶に来るなんて……ど、どどどどうすれば……)

　なぜかジャネットの椅子になっていた。優しげな顔立ちを緊張で彩ったまま四つん這いで彼女の椅子になっている様子は異様であったが、幸い店内は彼の主人が貸切にしていたためそれを目撃する人間もいない。ソレも思うところが無いわけではないが、『番同士のそういう愛』の一種であると自身を納得させている。

「それなら重畳。今後とも鍛えてやっていただきたい」
「もちろん。彼には期待しているしね。キミへの報告も兼ねて、こうして定期的に交流させてもらえれば嬉しいよ」
(ああ、ご主人様に期待されている……じゃなくて！　定期的に！？　交流を！？　ああ、私はいったいどうすれば……)

　かくして、1人悶々とする男を他所に彼女達は和やかに食事を楽しむのであった。

　※SS担当者：和了