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フーガ・リリオのヤぴによるおまけイラスト
イラストSS
とある森の洋館は、聖夜に似合うように飾り付けられていた。
鬱蒼とした森の中にある、2階建ての古びた洋館。
外から見れば少し不気味かもしれないが、中に入れば上等なもので。とある幻想貴族が住んでいたというのだから、きっと調度品の類もそれなりに価値が在るのだろう。
人が住んでいる証拠に磨かれた室内はぴかぴかとしていて、外見とはまったく別の印象を受ける。
そう、そしていつも此処に住んでいるうちの誰だっただろうか―― 一室を飾り付け、聖夜のパーティをしようと言い出したのは。
フーガはたまにはこういうのも良いもんだ、と緑と赤に飾られた洋館の一室を見回しながら、そんな事を思う。
壁には金色のモールが波打つように飾り付けられ、きらきらと明かりを受けて輝いている。入り口には愛らしい手作りのリースが飾られている。緑の葉に赤い実をちりばめたリースは、小さくても確かな幸せを形にしたかのようで。
片手にはオレンジジュース。これから乾杯をするので、まだ手は付けずにいる。
誰もまだ手を付けていない料理は見事なもので、七面鳥に生ハム、広い皿に賑やかに盛り付けられた魚のカルパッチョと多岐に渡る。
聖夜ならではのケーキは既に切り分けて、皆に配られた後だ。
クウハはそこそこ大きかったケーキを思い浮かべる。だが、切り分けて其の価値が失われたとは思えない。其れはある意味凄い事なのではないだろうか、と思う。小さくなっても、この光り輝く夜を祝うためのケーキに貴賤はなく。寧ろ仲間と分け合えたという喜びが、価値を増やしているようにも見える。
――それでは、乾杯しましょうか! クウハさんが音頭を取るんですよ
望乃もまた片手にはオレンジジュースを持って、今か今かとワクワクしている。
其の翼に絡み付いた薔薇は美しく咲き誇り、緑の葉と合わせて其れらしい色合いに見えるから不思議だ。
――あ、ちょっと待っ……こら赤羽、まだ“頂きます”してないだろ
グラスを取ろうとした大地が、ぱっと己の右手で左手を掴んで止めた。
ケーキでもなくグラスでもなく、料理を取ろうとした『赤羽』に気付いたからだ。
“カリカリすんなヨ、折角の聖夜なのに”
――それでも礼儀は礼儀だろ。ちゃんと乾杯して、頂きますしてからだ
己の左手を叱りつける赤羽を観ながら、一足先に生ハムを切り分ける憂炎。
メロンに乗せても美味しいだろうし、料理を包んで食べても良いだろう。だがクウハが「そろそろ乾杯するぞ」と言ったので、憂炎もまたグラスを手に取る。
大地もなんとかジュースが入ったグラスを手に取り、赤羽を説得し終えたようだ。
――それじゃあ、この聖夜に
――輝かんばかりの、この夜に!
――乾杯!
――かんぱーい!
ちりん、ちりん! グラス同士が触れ合って涼やかな音を奏でる。
飾り付けられたツリーの一番てっぺんで、星の飾りがきらきらと輝いている。
わいわいと喋りながら食事を楽しむ5人を見下ろして、微笑んでいるかのようだった。
※SS担当者:奇古譚