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ヴェルグリーズの宵福亭はくゆによるおまけイラスト
イラストSS
●A successful marriage requires falling in love many times, always with the same person.
『夢みたいだ』。ふたりで今日の日の為に『ああでもない、こうでもない』と選んだ純白のウェディングドレスはまるで御伽話に出て来るお姫様の様。
『似合ってるだろうか』。そう訊けば屹度彼――今日新郎になるあの人は肯定してくれるのだろうけれど、シンプルなビスチェから後ろに伸びるロングトレーンのレェスが今になって何だか凄く重たい。
誰もが羨む、恋人だった。
彼に似合う女の子なんて此の世に五万と居る筈で、わたしなんかが選ばれたのは、本当に夢みたいで、嘘みたいで、其の事で一寸喧嘩をしたなんて事も今や懐かしい。
『今日、わたし達は結ばれるのだ』。そう再認識すると途端にベイビーピンクのグロスの下の脣が熱を失って震えている。是からだと云うのに、何と気の早いマリッジ・ブルーに陥って――直ぐにでもドレスや靴を脱ぎ捨てて、逃げてしまいたい!
そんなわたしの気なんか識らないで新婦控え室のドアが開けば、タキシードをかっちり着こなした彼が貌を覗かせて。『お似合いのおふたりですね』だなんて式場のスタッフは褒め称えるけれど、本当だろうか。
懐疑の眼差しを見せるわたしの眉間を、白い手袋に包まれた人差し指がコツン、と突かれた。
「悪い癖。大丈夫だよ、そんなに疑わなくても綺麗だ。見惚れる位に。
……――じゃあ、行こうか。お手をどうぞ?」
掌を恐る恐る重ねると、嘗てふたりを巡り合わせた引力の様に力強く軀が引き寄せられる。
「……でさ、式が終わったら、ふたりで逃げちゃおうよ。
君の可愛い貌を他の男達に見せる気なんて毛頭無いから、本気の誓いの接吻は其の時に、ね」
『そんなの狡い、ずるだよ』とわたしが赤ら顔で怒ると、『元気が出たみたいで良かった、でも俺は本気だよ』なぁんて、わたしの旦那様は笑って見せたのだった。
※SS担当者:しらね葵