イラストSS

●Happiness is having a large, loving, caring, close-knit family in another city.
　凍てゝなる雲は冬の鉄帝國に、寒気を解く暖き風景が在った。

　ミルクをたっぷりと落とした紅茶の様な柔いツインテールがご機嫌な様に揺れる。ヒルディリからセスとリュカシスへの贈り物は凍み凝るこんな季節には必要不可欠なニットのセーター。
　兄姉弟の長兄であるセスには、粋な黒を。そして――。
「ウワー！　ディディ、こんなものも作れるの！　すごいやっ。カッコイイ！」
　『ゆめかわ』が売りで評判のアパレル・デザイナーである彼女の普段からは想定し難い其の一着は、リュカシスには彼の憧れである――鉄帝に於いて名を識らぬ者は居ないであろう、『コンバルグ・コング』――最強ゴリラファイターが貫通しているセーターだ。
　絶賛成長期の少年の為に袖や丈はやや長め。ゆったりとした着心地で、彼がくるくると回って『如何！？』なんて訊けばヒルディリが貌を机に突っ伏さん勢いで笑いを堪えていた。背中側に生えたゴリラの脚が彼女の企て通り丁度羽の様でぴょこりぴょこりと揺れるものだから。

「おっ、コングか。良いな。似合ってるぞチビ」
「セスも似合ってるよ！！」
　イケメンには黒を着せるべき――そんな法則でもあるのかと錯覚する程にセスの姿は堂に入っており、漸く面を上げたヒルディリが『そうでしょう、そうでしょう？』とふうわり微笑う。
「屹度、其れで外に出れば女の子達が黙ってないや……！　カッコイイ！」
「うふふ！　そうでしょうステキでしょう。わたくし、ウデにヨリをかけたんだから――……
　まあ、セスちゃん、あなたの場合、何て云いましょうか」
「お兄ちゃん、貌が怖いモンね！　ボク達には優しいけど！！」
「あ？　今なんつった？」
「ほぅら、眉間に皺！　でも是位ね、軽口が叩ければモテるのに勿体無いわ！」
「あのな。別に俺は――、」

「あのねあのさ！　プレゼント交換も終わった事だし……アッ」
　勢いよく『ぐうぅ』と腹を鳴らしたリュカシスが、照れ臭気に兄と姉を見遣れば可笑し可笑しと笑みぞ洩つれて。
「そうねえ、リュカシスちゃん。ご馳走を広げてしまいましょうか！」
「全く、こっちはこっちで色気より食い気と来た」
「あらぁ、良いじゃない。食べ盛りの育ち盛りですもの」
「そうだ！　コングを汚しちゃったら俺、凹んじゃうだろうから一寸着替えようカナ！」
「そんなに大切にして下さるなら、作り手冥利に尽きるわね。ふふ、あなたは其の優しさが素敵よ」

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「おいリュカ、言い出しっぺなんだからお前が乾杯の音頭を取れよ」
「エェッ！　カンパイノオンド……？」
「そういうのは長兄の役目ではなくて？」
「うぐ、仕方ねぇなぁ。チビっ子達はジュースだが――まあ、グラスを御手に」
　『乾杯！』という合図でグラスを軽く合わせればチリン、と小気味良い音がして。

「そうだ！　輝かんばかりの、コノ夜に！
　セスもディディも、大好き！」
「有難う、わたくしもあなた達がだーいすき！」
「お、おう……まぁ、そうだな――」

「「輝かんばかりの此の夜に、【あなた／お前さん】に幸あれ！」

　※SS担当者：しらね葵