イラストSS

（アトさんとバレエ鑑賞……！　嬉しいなぁ……）
　シックな深紅のドレスに身を包んだフラーゴラはちらりと隣に座る想い人へ視線をやった。彼はこの演目をどんな気持ちで見ているのだろうか。
　あの冷たい月の様な銀色は何を映しているんだろうか。
（あっ……）
　てっきりシニカルな笑みか、楽しそうに目を細めているかと思ったのに。その表情はフラーゴラの予想を覆す物であった。真直ぐに舞台の上を見つめているその眼は凪いでいて、真剣であった。この演目に思うところがあったのだろうか。脚を組み、頬杖をついているのは無意識かもしれない。暫くその整った横顔と銀色に見惚れていたフラーゴラだったが、アトに釣られた様に舞台へ視線を映した。

　今回の演目の名前はコッペリア。
　主人公の女性が思いを寄せる男が夢中になっているに美少女の名前であり、その正体は主人公に片思いをした男が創り、愛でていた人形である。
　舞台の上でくるりとバレエダンサーが舞い踊り、物語はどんどん進んでいく。
　ラストシーンは真実の愛を手に入れたカップルと愛を喪った男の対比が強調されて描かれていた。呆然と立ち尽くす男の姿から、フラーゴラもアトも暫く目を離せなかった。

　※SS担当者：白