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幸福いっぱいの白と君
イラストSS
――スランプだね、お互いに
そう言ったのはグレモリーだった。
ああ、と頷くベルナルドも、筆がさっきから一ミリも動いていない。書きたいものはあるのだが、巧く書けずに、書き出しにも線にも納得できずに、無為な時間を過ごしていた。
余りにも不毛な時間だ。
――どっかスケッチでもいくか
そう、今日は聖夜。
絵を至上とする二人にとってはいつも通りの夜。
だけれど、コンコン、とアトリエをノックする彼には、十分此処を訪れるに足る夜。
――あの、ベルナルドさん? グレモリーさん?
頼りない其の声に、二人ははっとして顔を見合わせた。
なんてタイミング! なんて素晴らしい巡り合わせ!
聖夜ってやっぱり素晴らしいね!
という訳で、訪れた閠を引っ張るように二人は静かな雪の森へ。
行きがけに二人ともスランプなのでモデルになって欲しいのだ、とお願いすれば、成る程と閠は頷いた。そう言う事なら、勿論、喜んで!
所で此処には愛らしい目玉がある。そう、雪の妖精とも言われる鳥、シマエナガ。閠が頼りなさげに立ったりくるりと回ったりしていると、彼の生来のものなのか、或いはただ単に其の白さに惹かれたのか、シマエナガがぴぴぴちちちと寄って来る。
――わあ……可愛い、です、ね……!
白い翼に、黒い尻尾。そして愛らしい、チョコを埋め込んだかのような瞳。
其れを布越しに感じ取った閠は、知らず笑みを浮かべる。
そうして己も白い羽なんですよ、と示すように、シマエナガと戯れ始めた。手から手へ飛び移らせたり、一緒に翼を広げてみたり。
飛ぶ事こそしないけれど、其れはまるで、大きな白鳥と小さな白鳥が戯れているかのようで。
なんて書きがいのあるシチュエーションなのだろう!
そうだねウンウンとか言いながら二人は――恐らくグレモリーに至ってはこの鳥の名すら知らず――、鳥と戯れる閠を只管にスケッチしていた。
不思議だ、さっきまで全然動いてくれなかった手が今ではすらすらと彼の姿を次々とスケッチしていくのだから。
――なあ、グレモリー
――多分同じ事を考えてるよ
――スケッチブックがそろそろなくなりそうだ
――ほら、同じ事考えてた
――グレモリー、さん! ベルナルドさん……! お二人も、触ってみません、か……!
こうして三人の聖夜は、静かに過ぎ去って行く。
※SS担当者:奇古譚