イラストSS

●乾杯
「シャイネン・ナハトに何をしてるんだか」
「おや、それは此方の台詞だと思いますけどね」
　鼻を鳴らしたクリスチアン・バダンデールに新田寛治は肩を竦めた。
　どうしたって馬の合わない相手というものは居るものだ。
　理由は些細な事だったり、そうでもなかったり。横たわる事情は人それぞれと言う他無いが、少なくとも言える事はクリスチアンと寛治の二人の場合は『如何ともし難い程に重要な理由を切っ掛け』だが、それに加えて同族嫌悪の類も持ち合わせている事は間違いない。
「エスコートの御用は無かったのかい？」
「焦る男は貰いが少ないものですよ。御存知でしょう？」
「……まぁ、知ってるから君と嫌々呑んでる訳だな」
　繰り返すがクリスチアンと寛治は似た者同士だ。同じような思考で見事に策を巡らせ、意中の女性と『駆け引き』を見せる余裕もある。その女性が『同じ』なのは御愛嬌だが、成る程。彼女位の相手ならば彼等位で無ければそう簡単に乗りこなせまい。
「……なあ」
「何でしょう？」
「しとくか、乾杯」
「どんな風の吹き回しだか」
　くっくっと笑った寛治はそれでも断る心算は無かったらしく。お互いに視線も合わせず、グラスだけを差し出した。

　――カツン、と小気味よい音は涼しく響く。

　勝ち逃げた男とそれでも負ける心算はない男。幻の一幕はこれ位素直でなくて丁度いい。