イラストSS

　二面性、というほどではないが、少しは知っている間柄の相手が、違った側面を見せることもままある。
　例えば、今。シャイネンナハトの夜。綾姫は、聖夜、街の広場で、子供と女性たちの歌声を耳にした。
「聖歌、でしょうか」
　そう呟く綾姫が、歌声に誘われるように、足を進める。聞こえる歌は、とても暖かく。聖夜の奇跡を喜ぶように、無数の子供たちと、それを繋ぐ女性の、ある種神聖さすら感じる声で、紡がれる。
「あれ……たしか、リアさん……でしたよね」
　綾姫が呟く。そう、聖歌隊を率いていたのは、リア・クォーツだ。ローレットに所属する、イレギュラーズ。何度か、依頼で一緒になった間柄だ。親しいというわけではないが、全くの他人というわけではない、微妙な間柄。
「……素敵ですね。こんな風に、歌える御方だったなんて」
　詳しく知っているというわけではないが、しかしローレットのイレギュラーズとして、果敢に戦うリアとは、少し離れたイメージだった。例えるなら、慈しみの聖母か。聞いていて優しさを思い出すような、歌声。それが、綾姫の心を震わせる。
「すこし、聞いていきますね」
　断るように、綾姫は呟いた。リアはきっと、聴衆の中から自分を見つけ出すことはないだろう。でも、それでも……次にあった時に、この時の事を話そう。綾姫はそう、心に誓った。

＊SS担当：洗井落雲