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ありがとう。すごく頑張って、勇気を出してくれましたのね
ありがとう。すごく頑張って、勇気を出してくれましたのね
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暖炉の燃える、ぱちぱちという音。
開いたオルゴールが奏でる異世界の音楽は、たしか『鈴が鳴る』という意味の言葉だったはずだ。
部屋には魔力の微光を放つライトロープで飾り付けたモミの木。
しかし壁際のソファを照らしていたのは暖炉の火でも、モミの木に吊したライトでもなく、テーブルの上におかれたランプのオレンジ色だった。
マリア・レイシスはすこしだけ、前のことを思い出した。
胸に抱いた恋心を隠したまま、花火をみに坂道を駆けた夜のこと。
近づく距離に胸を高鳴らせながら、その距離が壊れてしまうかもしれない不安を恐れた夜のこと。
けれど……。
「時が経つのは早いね。去年の今頃は、君に気持ちを打ち明けるのが怖くて仕方なかった……」
まるで遠い昔のようだ。
今手に感じるのはヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤのぬくもりだ。
頬に感じるのは、肩越しの体温だ。
身体全体から伝わるような、優しい囁きが聞こえる。
「ありがとう。すごく頑張って、勇気を出してくれましたのね」
僅かに動く気配が、衣擦れと顔にかかる髪から伝わった。
わかってもなお、マリアは目を閉じる。
額に、一瞬の熱があった。やわらかさと、やさしさがあった。
あの日の距離はこわれたけれど。
かわりにこのぬくもりを得た。
離すまいと決めて、マリアは手を強く握った。
担当GM:黒筆墨汁