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ちなみにこれ、どういう出自のお肉ですの?
イラストSS
輝かんばかりのこの日くらい、誰もがグルメにこだわりたい。
七面鳥にフライドチキン、ローストビーフもいいけれど……
「うわぁ、開店前からすごい行列……これ全部、二人のお店に並んでるのかな……?」
お肉が入った箱を抱え、肉屋のゴラーーもといフラーゴラは、オッドアイの円らな瞳をパチクリさせた。『串カツマリ屋』は聖なる日にも大盛況! 美味しい串揚げを求めて並ぶ人々の行列に、見慣れた赤い髪がちらりと覗く。キビキビ歩いて手にした何かを配っているのは店主のひとり、マリアだった。
「お待たせしてごめんね! 外で待ってるお客さんには、虎印のあったかカイロのプレゼントだよ。寒さで耐えられなくなったら、いつでも私を頼ってくれたまえ!」
「マリアさん、こんにちは」
「やぁフラーゴラ君。今日もお肉を持って来てくれたのかい?
待っててくれたまえ、すぐにヴァリューシャを呼ん――」
「オロロロロ」
「ヴァリューシャぁああーー!!」
店の裏から聞こえてきた声にすかさずマリアが駆けていく。程なくして、ほんのり酒っ気で頬を染めたヴァレーリヤが割烹着姿で現れた。
「お待たせしましたわ。少々、昼の仕込みを行っておりまして」
「……さっき、吐いてる様な音が聞こえた気がした、けど……」
「美味しい串揚げの秘訣は秘伝の衣とタレですのよ! 技術とレシピを盗まれないよう、あえて覗きたくなくなるような声を出しながら仕込みを行っておりますの」
「そうだったのかい!? さすがヴァリューシャ!」
曇りなき眼を輝かせて心の底から関心するマリアと、いいのかなぁ……二人が幸せそうならいいか……なんて納得する事にしたフラーゴラ。そう、ここいツッコミは存在しない。
「これ……今日のお肉の納品」
思い出した様にフラーゴラが抱えていた箱を開ける。中には色艶良好、ほど良くサシのふった肉がパッキングされ、ぎっしりと詰められていた。
「まぁ! とっても美味しそうですわね。ちなみにこれどういう出自のお肉ですの?」
「き、聞いちゃうんだね!? というか今まで知らないままお店で提供してたのかい!?」
マリアとヴァレーリヤの視線を集めたフラーゴラは、目を細めて唇で弧を描く。
「アトさん……」
「「えっ」」
「ふふ、ナイショ」
「「ひぇ……」」
受け取ったまま固まる二人をよそに、何事も無かったかの様に帰っていくフラーゴラ。
実のところ、お届けしているのは『アトさんに食べさせたい! ゴラ特性お肉セット』で普通に牛豚鶏肉の詰め合わせ。納品書にも品目は書いてあるのだが、マリアとヴァレーリヤは動揺のあまり気がつかず、お店のメニューを「串カツ牛の様なもの」「たぶん豚ヒレ串」という疑惑のレパートリーに変更して暫く提供してたとか。
※SS担当者:芳董