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3分の2
3分の2
イラストSS
●分かち合う幸せ
「バライヴア、いかないで、僕を置いていかないで――――!!」
悲痛に叫んだあの日、生まれた業火は、ラクリマの瞼の奥に強く焼き付いて離れない。
泣き叫べども逃げ、逃れるしか無かったあの日。隣に居た君を失った日。
心にぽっかりと穴が空いたようだった。フィルティス領より帰還してからも、心の穴は埋まることを知らず、唯がらんどうの心の中に無慈悲に風が吹く。
3人で食べようと決めていたシャイネンナハト。初めてその日が楽しみになったとふたりで笑いあったのに。もうその声も、笑顔も、ここにはない。
「……これは?」
「バライヴアの分だよ」
まんまるなホールケーキを三等分。あたかも当然のように告げるロロン。ラクリマは瞬いた。
「だって、バライヴアは、」
「もういないけど。でも、きっとバライヴアだって食べたかったはずだから」
涙が、こぼれた。
きっと、そうだ。もう戻ってこなかったとしても。あの時笑ってくれた君の心は、嘘なんかじゃないと信じているから。だから。
「……うん」
だから、三等分。今日食べるのは3分の2。余った1つは、この空の下のどこかにいる君のために。
※:SS担当者:染