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忘却の彼方に
忘却の彼方に
イラストSS
●Till elevators drop us from our day.
風に向かって投げつかれた砂を、風がまた吹き戻す。一粒、一粒の砂が神聖な神聖な月明りに照り返され、其れは宛ら雪の如く。そして百千の霊が彷徨うばかりの物言わぬ夜が其処にあった。
色とりどりのオーナメントで飾り立てられたツリーは人々の願いを背負い過ぎたかの様にぽっきりと折れ星を見失い、誰かに抱かれる筈だったテディ・ベアも、誰かと共に駆ける筈だったラジコンカーも打ち捨てられていて。
テナントには当時の流行が窺い識れる服を競ってマネキンが着込み、置いてけぼりにされた事を識らない幸せなのっぺらぼう達は思い思いのポーズで客を誘うのだ。
全てが茶番じみて見える此処は『再現性東京1999』――其の、放棄領域。
『ヒマなの?』と少女が尋ねると、もう一人の少女が『アナタこそ大概ですね』と答え、吹き抜けの天井の破れた硝子窓へと叩いた縫いぐるみの埃と共に吸い込まれて行く。
「持って帰るんです?」
「一匹位いいでしょ」
「まあ、咎める人も居ないでしょう」
「名前ももう決めた」
「そうですか」
朝が今しも開けようとする所に、然し尚其の砂はきらきら輝く――
※SS担当者:しらね葵