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夢の足跡II
夢の足跡II
イラストSS
──憎しみというものを知ったのです。雪が降るあの寒い夜に。
マントを着込むフェリクス。旅の荷物は作物の種と赤い十字架。
痩せた土地に種をまく。少しでも皆の助けになるようにと。芽が生える前に死ぬか、芽が生えても途中で死ぬか。彼はこうでもしていないと心がばらばらに砕けてしまいそうだった。
種をまくことで彼の心は一時的に救われていた。
「神父様……? 牧師様? ああ! どっちでもいい。こんなへんぴな所で会えるなんて!」
彼の赤い十字架を見た老婆がフェリクスに近付く。求められるがままに施しを行う。
老婆が救われたとでもいうように礼を言って立ち去る。フェリクスの黒い感情が洗われる。『自分は人を救っている』
あの女とは違う。
摘発したのも善き行いだ。故郷が燃え、略奪を行ったあの女への然るべき報い。
フェリクスがごほごほと咳き込む。彼の胸の黒い炎に呼応するように咳が出る。路銀が尽きようとしている。少し痩せたように思う。
「……雪だ」
寒いと思った。ちらちらと雪が降り始めている。もっと降りしきる雪を見たことがある。
談笑を交わし冬の支度や教派の仕事をした。
──あの時はもっと人がいた。
フェリクスが掴もうとした雪は手からこぼれ落ちた。
※SS担当者:7号