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温かな夢
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――それはずっと、ずっと昔のことでアル。
クラースナヤ・ズヴェズダーの革命派。急進的に、事を進めんとする彼女達はそれでも尚、穏やかな時を過ごしていた。
鉄帝国にしては豊作であったこの年のシャイネンナハトを迎えられることをヴァレーリヤは心待ちにして居た。
「今日はスープに芋を入れましょう。それから、それから……」
うきうきと頬を緩めるアミナに「そうしようか」とフェリクスも頷く。準備の品はある程度揃えてあった。あとは持ち出し、祈りを捧げる準備をするだけだ。
「お前達、早くしろ」
叱るアナスタシアの声を聞き「呼んでおりますわね」「本当ですね」とヴァレーリヤとアミナは顔を見合わせた。
急ぎ教会を飾り付け、乳香を炊いて祈りを捧げなくてはならないのだ。
荷物を担ぎ上げたアナスタシアに叱られる前にヴァレーリヤは悪戯心を疼かせて勢い良く走り始める。
「ぱぱっと終わらせてしまいましょう! 走れば早いですわー!」
「あっ、先輩! 待ってください。私も……あわわわっ!」
両手で荷物を抱えていたアミナは脚を縺れさせながら慌てた様にヴァレーリヤを追掛けた。
「ヴァリューシャ先輩! ま、待って……!」
折角の飾りが箱から毀れ落ちてしまいそうだと慌てるアミナにフェリクスはやれやれと肩を竦めた。
相変わらずのヴァレーリヤと純粋すぎて、先輩に従うアミナは見ていて微笑ましいが同時に聖職者としての及第点には程遠いとフェリクスは考えていた。だが、それでも良いのだ。クラースナヤ・ズヴェズダーに必要なのは弱者救済。民を思いやり、神を信ずる心なのだから。
「こらっ、教会で走るんじゃない! 主の御前だぞ!」
民草の中で聖女とまでも歌われたアナスタシアの叱る声音にアミナは震え上がった。
「も、申し訳ありません! ですが、浮かれてしまって……。
餓えも遠く、心躍り祭が出来るだなんて。どれ程に幸せなのかと!」
「……まあ、そうだが……」
アナスタシアは無垢な少女の言葉に「あまり騒ぎすぎないように」とだけ釘を刺した。
何時までも続いてくれれば良いのに。
こうして笑い合える日々は、神からの恵みなのだ。
いつまでも、ずっと、ずっと。
そう、願わずには居られなかった――もう、その日常が戻ってこないと知っているけれど。
*SS担当:夏あかね