イラストSS

　……金の音がする。より厳密にはコインの音、か？
　数多の金が流れゆく此処は――賭場である。
　場に在るは神妙な顔つきのテレジアにヴァレーリヤ。
　……負けられぬ。そう、負けられぬ戦いに彼女達は挑んでいたのだ。
　なにせ彼女達にはもう後がなかった。
「信じる者は救われる。ええ、間違いなどあろう筈がありません……」
「大丈夫。大丈夫ですわ。次は絶対、絶対に黒が来る筈ですから……」
　テレジアは100万Goldの借金を。
　ヴァレーリヤは溜まった飲み代のツケを支払わなければならない期日が近づいている。
　いわばこれは聖戦。決戦たる一時。
　此処で勝てば栄光を掴める（全部チャラに出来る）のだ。
　乾坤一擲の大勝負――！　唾を呑み込みて、彼女達は――ッ！

「「これでフィニッシュでございますわ――！！」」

　今。（有り金）全てを懸けて――一歩を踏み出した！



「ふふ。最後のケーキを買えただなんて、運がいいなぁ……と？」
　ギルオスは街を歩く。所用を済ませた帰り道だ――が、その時。
　なんぞや不穏な気配を感じた。
　路地裏から生気のない声が聞こえる……なんだ、と覗いてみれば……

「おほほほ、10,000Gold札が1枚、2枚……おやぁ？　おかしいですわ、いつの間に新聞紙に変わったのかしら。さっきまであんなにいっぱいあったのに……もう一度数えてみましょうか……10,000Gold札が1枚、2枚……」
「これは夢……そう、きっと夢でございますわ……私は今、自宅で暖かなベッドの中にいるんですわ……或いは行きつけのBar『ミスト』で酔いつぶれてる最中でしょうか……？　あっ。あの店は出禁になったんでしたわ……」

　其処には――行きながらにして死人たる者達がいた……！
　虚ろな目で正気を失っているかのようなシスター・テレジア。その傍には、力なく寝転がっているヴァレーリヤもいようか……近くには不吉な黒猫やらネズミの姿も見受けられる。なんの事情も知らない者が見れば、なにかの事件後と勘違いする光景にも見えようか。
「……おや？　なんだか……財布の匂いがするような？」
「……財布？　財布ですの？　私の財布が、帰ってきましたの？」
「ヒッ！　なんだ！？　何かまずい気がする！！」
　とても胡乱とした目でギルオスを見つめる二人。
　――その後に何が起こったのかは分からない。
　壮絶な鬼ごっこでも始まったか、さて。

　全ては。輝かんばかりのこの夜だけが――知っているかもしれなかった。