イラストSS

　一筋の煙がふらふらと空へと伸びていく。雪の粒を避けながら空へと広がり街灯の明かりへと溶けていく。
　チェレンチィは煙草の熱を肺へと流し込み、冬の寒い空気へと煙混じりの息を吐き出した。
　ベンチに腰掛ける彼女を探す者はいない。聖夜だからと、特別な事をしているわけでもない。彼女はただ、静寂と彼女を囲む木々と、街灯と在るだけ。
　煙草を手に、チェレンチィは過去へと思いを馳せる。ベンチに腰掛けるのではなく、北風を避けるようにベンチの後ろで小さくしゃがみこみ、震えていたあの頃を。
　自分が冬が嫌いだった。スラム暮らしに温かい家や暖炉があるはずもなく、得られるはずもないガス灯の微かな光と熱を期待して皆で集まり生きていたあの頃を、朝日を見ると誓った友が、日が昇る頃には冷たく凍りついていた世界を、誰が好むことがあるだろうか？
　聖女の祈りが争いを鎮める？　それがなんだ、自然の厳しさは何もかわりっこない。せいぜい凍死するのが一日遅れるだけじゃないか――
　今は違う、家も、仕事も、暖を取ることのできる服もある。けれど、ああ、今でも冬はあんまり好きになれないな……そんな事を考えて、あの頃と変わることなく光を放つ街灯を、チェレンチィはただじっと眺め続けるだけであった。


　※SS担当者：塩魔法使い