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輝やかんばかりのこの夜に乞う
イラストSS
雪が降りしきる聖夜の夜。とある館に一組の男女がいた。否、一組の男女だけがいた。
本来であればもっと大勢の人で賑わっているはずの館にいるのは白い男と黒い女。
白い男――白萩は黒のタキシードに身を包み。
黒い女――天黒は白のドレスに身を包む。
そんな二人が何をしているのか。それはたった二人だけの結婚式。誰に知らせるわけでもなく、二人だけの秘密のウェディング。
二人しかいないのだからそこに豪華な食事なんてものはないし祝福してくれる参列者なんてものもいない。しかしそこには確かな愛がある。それさえあればいい。それだけあればいい。だからこその二人だけのウェディング。
他には何もない、何もいらない二人だけの世界。
愛の言葉を紡ぎ終え白と黒の二人が手を取り合って踊る中、天黒がふくふくご機嫌に笑う。
「どうした?」
「幸い、というやつを噛みしめていたのだ」
愛おしい人の腕の中に自分がいる。そして自分の左手では先ほど交換した愛の証が煌めきを放つ。
これ以上の幸いは天黒の歩んできた永い年月の中でもありはしなかった。
「そうかい」
嘘で塗り固められた白萩という男の生。この名前ですらただ便宜上名乗っただけのもの。本来の名ではないし、これ以外に名乗った名前も数えきれないほどある。
しかしそんな白萩にも唯一嘘ではないモノがある。目の前にいる彼女への想いと自らの左手で光る愛の証。これだけは嘘ではない。嘘にしたくはない。
「俺もだ」
だからここでも嘘はつかない。腕の中の中にいる愛おしい人には。
たった二人で愛を誓った秘密のウェディング。この館には、この世界には今二人しかいない。
しかしそれでいい、それがいい。ここには確かに愛がある。嘘ではなく確かにここにある。
他の誰が知らずとも、二人だけが知っていればいい。ここで愛は誓われた。
二人だけのウェディングはもう少しだけ続く。曲が止まり、ダンスが終わるその時まで。
お互いを支え合い、もう少しだけダンスは続く……。
※SS担当者:灰色幽霊