イラストSS

●Acquainted with the Night.

「良う、撮れておりますね」

　つるり、とした硝子のフォト・フレームに納まった一枚の写真を指でなぞり女は其の時の事を想起しては息を吐いた。
　『夜に馴染むホリデーコフレ、一番遠い燈の其の奥を暴いて――』そう銘打った練達のコスメブランドの広告写真。『級友の勧めで』なんて陳腐な話で撮られた其の一枚は、アドベントカレンダーに詰められたプチコスメを集めて行った最後の日――シャイネンナハトの夜をイメージしている様で、堂に入った佇まいで其処に写って居るのが自分であると云う事を差し引いても魅力的な様に写った。

「おや、チル様。其の脣」
「嗚呼、一式頂いてしまったので普段より粧して見たのですが……如何です？
　庭先で囀る小鳥もこうして居れば血統書付きのお喋り好きなインコ位にはなりましょう」
「生憎とおじさんに女性のメイクを褒める様な甲斐性は無いものでして。
　其れより、お茶が入りましたよ」
「……頂きます、でも、ううん」
「キャラメルとスパイスのフレーバーティーです。ミルクは此方に……其れとも何か？」
「いえ、マーキングみたいだなあって。……何でも無いです。本当、鈍いお方だ」


　※SS担当者：しらね葵