イラストSS

　飛び交う声。忙しない人々。けれど右から左、上から下まで誰も彼もがまるで嫌な顔などせず、広いホール内を動き回っていた。
　——来たる祝祭を彩るために。
　きらめく模造の星も、あたたかな料理の数々も、幾度となく戦地を駆けてきた彼らの手で運び込まれるそれらは聖女の願った『争いのない日』に相応しく、しかし流石の大所帯である。適切に管理する者が必要だった。

　割り当てられた準備の合間、ハンス・キングスレーはテーブルに凭れ、きっと今日という日でさえ誰よりも手を動かしているだろう彼のことを思い浮かべる。ここが済んだら手伝いに行こうか。そう思案する肩を叩いたのは紛れもなくベネディクト＝レベンディス＝マナガルムその人で、ぱあっと少年の表情は綻んだ。
　進捗だとか他愛もない話をしながら共に過ごせるだけでも十分に心躍るのに、お疲れ様、と彼の大きな手で撫でられたならハンスには少し早いプレゼント同然だ。くすぐったそうに目を細めればベネディクトにも笑みが溢れたその刹那——喧騒の中にシャッター音がひとつ。フィルムの中に切り取られたふたり。レンズの向こうから投げられたウインクに、おや、と思いこそすれ彼が咎めることはなかった。
　
　輝かんばかりのこの夜に。仲睦まじい兄弟のような彼らの時間はいつまでも。


　※SS担当者：氷雀