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追いかける背は何だか大きい
追いかける背は何だか大きい
イラストSS
夜と朝の境目を知らせる、薄紫の天。規則正しいリズムで踏みしめる雪の音と、時折もれる呼吸の音だけが、生き物達が冬の眠りに微睡むこの雪山に広がっている。
防寒着をしっかり着込んだことで身体がかじかむことはないけれど、吐く息の白さによって外気温はしっかりとこの目に見えていた。
ある日をきっかけに、イーリンとフラーゴラは二人で雪山の星を見に行くことが増えた。きらきら星の真夜中をテントで過ごして、今は明ける直前の山を静かに登っている。
イーリンが踏みしめた雪の足跡を、フラーゴラが追うように。二人とも一定のテンポを保って、体力が途切れてしまわぬように。
たとえ同じルートを辿っても、見える景色は必ず違う。いつだって変わるその風景は、フラーゴラの心を動かす。
「うん……やっぱり同じ雪山や同じ夜明けでも景色が違う。学ぶこといっぱいある……」
狼娘がそうこぼすと、彼女のお師匠先生はくすりと微笑む。
「もうそろそろで頂上ね」
薄紫の天はまだ星がうっすらと瞬いていて、遠く地平線には朝陽がほんのりと頭を覗かせ始めている。
やわらかな夜が眠りについて、はれやかな朝が目を覚ました頃。
頂上に辿り着いた時には、この雪山はきっとまた。
――二人の知らない、あたらしい景色を見せてくれるはず。
※SS担当者:遅咲