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パーティーはまだ始まらない
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シャイネンナハトの夜だというのにナヴァンは相変わらず研究と仕事三昧である。
彼の集中が継続しているのを良いことに九之助は「ニィちゃん、クリパしようや~」と軽い調子で声を掛けた。
「なにをするのでしょうか」
「ええから、ええから」
任せておけと言わんばかりに胸を張って。サンタクロースのコスプレを身に纏っていた九之助は早々に自身の仕事を終わらせ、ニルと共にパーティーをする準備を進めているのだろう。
適当に飾ったオーナメントに小さなクリスマスツリー。料理は片付けられたテーブルに飾られて食卓の準備も完了だ。
研究室内を華やかに飾り付ける九之助と良いのかと首を傾げるニルにナヴァンはまだ気付かず――
「――様、ナヴァン様」
「……何だ? ……何だ!?」
名を呼ばれて思わずナヴァンは目を剥いた。気付けば周囲は飾り付けられていたからだ。
「ナヴァン様! お仕事終わったらみんなでパーティーしましょうね」
「ニィちゃんも待っとるし、そこらで終わりにせぇへん?」
これがイベント事が大好きな九之助の仕業である事はナヴァンにも見当がついていた。
ニルが勝手に飾り付けるわけがない。寧ろ、何か楽しそうなことが起こっていると心躍らせて期待に胸を膨らませた事位は想像に易い。つまりはナヴァンはニルに弱い。ニルが喜び楽しみにしていればナヴァンとて作業の手を止めるしかないのだ。
「ナヴァン様、お食事はありますよ! これは『おいしい』です」
「そうやで、ニィちゃんとちゃーんと用意しといたんやから」
「……」
ナヴァンはぐう、と息を呑んだ。
にんまりと笑った二人を見ると、普段はあまり頓着することもなく存在感も希薄な胃袋がギュウと音を響かせる。
どうにも『餌付け』(ほだされ)ているのだ。ニルが喜ぶ顔を見れば『おいしい』ものがやってくると体が覚えてしまっている。
「……これが終わったらな」
嘆息した彼に二人はやったあと楽しげな声を上げる。
「『おいしい』のケーキです」と九之助に味見を頼んでおいたスイーツショップのケーキを手にしたニルはうきうきと身を揺らしてナヴァンの作業進捗を確認するように覗き込んだのであった。
*SS担当:夏あかね