イラストSS

●やきもちアリスの冒険
「はぁ、はぁ、はぁ……」
　訓練場に華蓮の荒い呼吸が漏れる。
「は、はぁ、は――」
　細く速い呼吸は彼女の肺がより多くの酸素を求めている事を示している。
　困っていたらすぐに手を貸してあげたくなるような彼女が倒れそうになりながらも目の前の男に食らいついている。
「……何だか、オマエにこうするのは寝覚めが悪いんだけどな」
「だ、駄目なのだわ……！　レオンさん、今日は絶対に甘やかしてはいけないのだわ……！」
　華蓮に『稽古』をつけているのは言わずと知れたレオン・ドナーツ・バルトロメイである。
　切っ掛けは大した話では無く、乙女にとっては至上に重要な話だった。

　――ラマさんばっかり、ずるいのだわ……

　――うん？

　――私もっ、私って……レオンさんに教えて貰いたいのだわ……！

　さもありなん。
　どちらが良いとは言えまいが、人間は自分に無いものを求めたがるものである。
　それが瑞々しい少女の感情をもとにするなら尚更で。
　彼女はこれまでも考えていなかった訳ではなく。『考えないようにしていただけだ』。
「分かってるよ。だから今日は厳しくしてるだろ？」
「……っあ……！」
　立ち向かった華蓮の足が払われて、彼女はまた地面に叩き付けられた。
『怪我をさせないように手加減している』のは明白だったが、そこは責められまい。
　華蓮は大きな瞳でじっとレオンを見つめている。
（絶対に、私は――もっとレオンさんの役に立てるように……！）


※スキル『レッド・クイーン』を習得しました！