イラストSS

　ほろほろと崩れゆく甘さに、頬が内側から蕩けるようだった。
　思えばヒトの真似をして話し方や仕種を覚え、ヒトに倣ってカルウェットは聖夜を知った。
　双眸に常より輝いて映っていた、人々の町並み。それがこの日ばかりは一等眩しい煌めきに満ち溢れる。おかげでカルウェットも浮き立つ歩みを抑え切れず、良くしてもらっている店を訪れたのだが。
「おいしい、ボク、これ好き、なる」
　頬をふくふくとさせて、店主へ感想を伝える。着飾った服も構わずケーキにかぶりつく姿は、端からみると幼子の食事風景のようで。けれど店の人も眦を和らげ、嬉しそうに頷くばかり。
　ショコラの甘い香りに包まれたかと思いや、次に頬張ったケーキの生クリームが、ふんわり舌を撫でてくれる。更にはココアを流し込み、いくつもの『おいしい』で喉を潤した。
「ボク、聞いた、ある。おいしい、幸せ、呼ぶ」
　染み入る甘味に喜んでいることを、カルウェットはじっくり店の人へ語りかける。熱心に紡ぐその口に、幸せ含んだ頬に、甘さを辿る手に、たくさんの『おいしい』をくっつけて。
　だから店の人も、サンタクロースの砂糖菓子も――そんなカルウェットをやさしく見守り続けた。


　＊SS担当者：棟方ろかGM