イラスト詳細
星天の階、その頂き
星天の階、その頂き
イラストSS
足元に蝋燭を並べるように、眼下に家々の明かりが立ち並ぶ。
塔の上で一人佇むアリアは、その灯火の一つ一つに思いを馳せる。
そこには、生活がある。思い出がある。
そうしたものに想像の網をかけ、詩歌を紡ぐのが彼女の楽しみである。
誕生日のプレゼントを貰い、破顔する子供。
愛の言葉と共に永遠を誓う恋人。
何の変哲もない一日でも構わない。想像さえ掻き立てられれば、後はその場で旋律を紡げばそれでいい。
そうして出来た言葉を繋いで合わせて、歌にする。
小さな町の一番高い塔の上。彼女の歌う小さな歌は、町の中に響き渡る。誰かが足を止めて音のする方を探し、別の誰かは耳を澄ます。
歌い手の姿は見えないけれど確かに聞こえるその一節は、ありきたりの幸せを歌う。冷たい空気が町を包むように、心に小さな幸福の灯が灯る。
「いい詩だな」
「ほんとね」
そんな声と笑顔がどこかで零れた。高いところにいる彼女にそれは聞こえないけれど、彼女はそんな評価を気にも留めずに歌い続ける。いつの間にか増える聴衆が塔の入口に屯っているのにも気付かないまま。
やがて歌が終わり、万雷の拍手が町を覆う。
そうして初めて、少女ははにかんだ笑顔を浮かべるのだ。
*SS担当者:澪NM