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すぐ其処に在って届かないもの
すぐ其処に在って届かないもの
イラストSS
ソファに腰を下ろしたイーリンと、膝枕されたレイヴン。
イーリンの管理している文化保存ギルドの一角で、レイヴンは耳かきをしてもらっていた。
いつか思いを寄せていた相手。どことなく落ち着かず、視線を床の方へやる。
視界に入るスカート。僅かに胸の音が鳴った気がした。
「おかゆいところはございませんか」
ささめくような柔らかな声音。
落ち着かないのに安らぎを覚える。居心地の悪さと心地よさが混ざった、不思議な感覚。
「…………ん」
レイヴンの反応に、少し顔を覗くようにするイーリン。
「あ、いや、大丈夫」
「そう」
レイヴンからは見えない、声音よりも柔らかな笑顔。
まどろむような心地のまま、流れていく時間。
しばらくして紡がれたイーリンの言葉。
「はい、次は反対」
穏やかな時間が半分過ぎて、少しずつ少しずつ終わりに近づいていく。
幸福感と、ずっと続いてほしい気持ち。
向けられる笑顔に恋情は無いし、この時間がずっと続くわけはない。
けれど、だからこそ。
だからこそ、温かで穏やかなこの時を。ずっとずっと覚えていたいと思った。
*SS担当者:春風NM