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伽者
伽者
イラストSS
――平和を希求するのが生者の特権だと誰が言った?
生きとし生ける者が平和を望むその日に、死者たちもまた安息を望む。
そうした声にならない声を拾い、届けられない願いに灯火を灯すべく、丹下は礼装に袖を通す。
「皆様、お集まりいただきありがとうございます」
埃の臭い漂う旧い礼拝堂に厳かな声が響き渡る。彼の者を頼り集まる霊魂たちの輝きは、さながら季節外れの蛍の如く。
無数のそれらが、思い思いに瞬いては消える。その一つ一つの声にならぬ囁きが、丹下には聞こえる。
有難い。
世話になるよ。
妻は元気かな?
みんなおっきくなったかな?
老若男女、生前は皆違う貌をしていた。その魂もまた、一つ一つ異なる。
それら一つ一つの声に耳を傾けてから、丹下は静かに祈りを捧げる。
それは旅路の途中で見たある祈りの風景。神と先祖へ捧げる祈り。
残念ながら丹下が仕えるべき神ではなかったけれど、その祈りの美しさを彼はよく覚えていた。
廃教会に雪のような魂が集う。
その祈りもまた、輝きとなって夜を照らしていく。
*SS担当者:澪NM