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三周年記念SS~天国と地獄は指の先~
イラストSS
●再現性東京1990年街と一人の女
再現性東京1990年街——バブルも弾け、貧富の差が大きくなった時代は、大室鉄也がTKGやRrooveを流行らせ、明け方までクラブでDJがディスクを回し、それに合わせて狂乱したかのように踊るのが常であった。この時代の人々は何もかも忘れたかったのかもしれない。
その地に降り立った女の名はクシュリオーネ・メーベルナッハ。可憐な美女だ。立っているだけならばの話だが。
クシュリオーネが満足そうな笑みを浮かべ、ラブホテルから一人出てくる。清廉な笑顔と裏腹に、その裏で起きた激しい行為と残虐な殺人は絶筆に尽くしがたい。
——次はどんな方がいいかしら。気弱そうな方がいいのよね。気弱そうな方が少しずつ自信を持って、自信満々になったときに首をなぞるの。うふふ、この快感を超える悦楽があるなら教えて欲しいものだわ。唇が知らず三日月を形作る。足は楽しげに街を彷徨う。
「あら……ごめんなさい……。少しボーッとしていたものですから……」
倒れ込んだ先は分厚い眼鏡をかけた野暮ったい少女の胸の中。勿論、偶然などではありはしない。わざとだ。
こういう分厚い眼鏡を外すと美少女だったりするから人は外見に依らない。胸は大きいけど、顔はまぁまぁかしら。起き上がると見せかけて、足を絡める。
「あっあっ……ごめんなさい……! 私……ドジで……。……本当にごめんなさい……!」
「……いいですけど、早く退いてもらえますか」
——見た目と違って結構気が強い子なのね。私の守備範囲外だわ。
「ごめんなさい……!」
素早く立ち上がると、走って逃げていく、ようにみせる。あくまで次のターゲット探しが目的だ。ついでに色々チェックしてるだけ。それぐらいのちょっとした戯れがあってもいいでしょう? 遊びがない人生なんて退屈だわ。それをさっきの子は何かしら。本当につまらない女ね。あーあ、いい子いないかしら。
●邂逅
出会いは運命の神様の采配だ。特に好みの相手となると難しいものである。例えターゲット範囲が広かろうとも、だ。
出会い頭にぶつかって、体を触って反応を探るのにも無理がでてきた。なにより、そうして何度も体に触れることで自分の性欲も昂ってしまった。そろそろ食べたいところね。小さく舌舐めずりする。
「ちょっ! ちょっと! そこの人! あぶなっ——」
そういう男はへっぴり腰でスケートボードに乗って坂をハイスピードで駆け下りていた。格好もダサく、いかにも気弱そうで線が細い。私は驚いた顔で固まった、ように見せる——鴨がネギを背負ってくるとはこのことね。
「あいたたっ……ってそれどころじゃなくて! 俺のことなんかよりも謝るのが先だよな! ごめんなさい! ごめんなさい! ごめんなさい! あっ、お怪我ないですか?!! こんな可愛い子に傷なんてつけちゃったら俺っ! ちゃんと責任は取りますから! あっ、結婚とかそういう意味じゃなくて!!!! 怪我をきちんと治すまで責任は果たすって意味で!」
——これは上物ね。今の青ざめた顔もいいけれど、自信が芽生えたらどうなるのかしら。しかも、おだてれば木に登りそうな豚みたいな子。私の好み、ど真ん中だわ。
「ふふふっ、面白い方。大丈……っつぅ……足を捻ってしまったようですわ。少しの間でいいんです。……肩を貸して頂けるかしら……?」
「もっ、勿論!!」
するっと腰を撫でながら手を回す。男は目を白黒させながらも私の肩を抱く。私好みの素直で分かりやすい子。
「足痛いんだよね? 病院行く?」
「その前に名前を教えてくれるかしら?」
「あっ、俺、名前教えてなかった?! ……ごめん。俺、楠健太っていうんだ。健太って気軽に呼んで!」
「ケンタさんね。ありがとう。私のことはクシィって呼んで。まずは必要な物を買いに行きたいわ。……ダメかしら?」
「……うんっ、クシィさんだね……。……いいよっ!」
声が上ずって緊張しているのがよく伝わる。ふふふ、今日のデートプランでどう変わるかしら。
●デート
「ちょっっと聞いてないんだけどぉぉぉお!」
「……ですけれど、コンタクトつけた方がああいう事故は起きないと思うの。……だからつけてほしいなって思って……」
「うっっっ……」
潤んだ声で事故を取り上げれば、もうケンタは私の手の内。悲鳴が心地いいわね。
「うっうっ……目に指を突っ込むような真似なんて! 本当怖かったよぉ……」
「ケンタさん、ほら、鏡見て。すごくカッコよくなったわ。惚れちゃいそうなくらい」
「そ、そうかな……。クシィさんにそう思ってもらえるなら、頑張った甲斐あるかな」
「エラい、エラい」
手をケンタの頭に乗せて撫でてやる。
「こ、子供じゃないんだから……やめてよ、クシィさん」
ここで手を振り払うぐらいが理想なんだけど、コンタクトに変えたぐらいではまだまだね。でも、なかなかのイ・ケ・メ・ン。食べ甲斐があるわぁ。
ーーこの後、服を買ってやり、褒めてあげて、メンズエステに連れて行って、褒めてあげて、ご飯を奢られて、褒めてあげて、嘘の告白をして、偽の恋人同士になって、ケンタは私のお尻を照れながらも触るようになってきた。そろそろね。二人揃ってラブホテルに向かう。
ラブホテルが初めてのケンタをさりげなくアドバイスしながら、部屋に連れ込まれる。計画通り。
「俺、先にシャワー入ってくる……!」
律儀に買ってあげた服を畳んで入るケンタがかわいくて仕方ない。うふふ、隠していても、あなたの中央が高まっているのは丸見えも同然よ。
「私もシャワー入ってくるね……。覗いちゃダメだよ……」
こう言っておけば、覗けないながらも、私の裸とか妄想しちゃうんでしょ? 私よく知ってるの。
案の定、でてくるなり、ケンタは興奮しながら、私をベッドに押し倒す。そして、私が教えてあげた大人のキスをしながらバスタオルを引き剥がす。
「……優しくしてね……」
こう言われて、優しくなる男を見たことがない。男は高まり猛る一方だ。荒々しく私を犯していく。快楽が私を支配する。
「……やぁ……そこ……ダメェ……」
さりげなく快感を強めてくれる場所へと誘う。グチャグチャとイヤらしい水音と私の喘ぎ声とベッドの軋む音だけが部屋を支配する。
ケンタがイク度に締め付けて、口に含んで、復活させて、二度三度と快感を楽しむ。食事の時にクスリを盛ったから、まだいけるはずだ。
「……クシィ……もっと俺にイヤらしい姿見せろよ。この淫乱!」
「……うふふ……あなたがそんな風になるのをずっと待ってたの……」
向かい合って腰を振りながら、ケンタの両手を私の首に持っていく。ケンタは促されたように私の首を締め付ける。窒息しそうな朦朧とした感覚の中で私も手をケンタの首に持っていく。そして爪をゆっくりと首に押し付ける。
吹き出す血。唖然としたケンタの顔。温かくてねっとりとした肉の感触。最高の悦楽が私を支配する。
——最近では最高の男だったわ、ケンタ。ありがとう。そして、さようなら。
●現実
ぐにゃりと視界が歪む。目を擦って目を開けたら、そこは自室だった。カーテンから差し込む光が眩しい。
最近ご無沙汰だから、こんな夢見てしまったのかしら。夢みたいにヤり放題殺し放題したいわね。ローレットという首輪があるから、そう自由にできないのがもどかしいわ。夢で好き放題やって、スッキリできたから少しは気が晴れたけど。
ふぅ、とため息をつく。自由になりたいものね。それがいつになるかは分からないけれど。