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イラスト詳細

ゲオルグ=レオンハートのゆーきによる三周年記念SS

作者 ゆーき
人物 ゲオルグ=レオンハート
イラスト種別 三周年記念SS(サイズアップ)
納品日 2020年11月15日

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イラストSS


「どうした? ジーク」
 ゲオルグがお茶を淹れている間に、家族であるふわふわ羊のジークが読みかけの雑誌の上にへばりついていた。
「何か気になる物があったのか?」
 ジークの横から雑誌を覗き込むと、先ほどゲオルグが見ていたのより先のページに『この秋お勧めピクニックスポット!』という見出しと、美味しそうなお弁当や見るだけ癒されそうな風景写真が載っていた。
 その中でもジークは、何とも雄大な大樹の写真を小さなおててでぺちぺち叩いている。
 その可愛らしさにほっこりしながら、ゲオルグはどこで撮られた写真か見る。
「結構遠いな……」
 気軽にふらりと行ける距離ではないが、予め計画しておけば行ける距離。いや、なんなら近くで宿を取って、一日のんびりするのもありだ。
「……行くか?」
 キラキラと期待に満ちた眼差しで見上げてくるジークにそう呟くと、ジークは雑誌の上で小躍りし始めた。
 小さくふわふわの体で嬉しそうにくるくる回ると、そのまま今度はふわふわ卵がぎっしり入ったサンドイッチやドライフルーツたっぷりのパウンドケーキ等の写真を押さえる。
「そうだな。美味しいサンドイッチにお菓子も沢山持って、みんなでピクニックに行くか」
 ゲオルグの穏やかな黒い瞳には、嬉しそうなジークと気ままに過ごすにゃんたま達が映っていた。


 風に乗って聞こえる木の葉の擦れ合う音に、纏めて連れて行けるようにと用意したバスケットの中からゲオルグの瞳と同じ艶やかでもふもふな毛並みに、夕焼け色の目のにゃんたまが鼻を出した。
「どうした? クロ」
 顔を出したクロを撫でると、魅惑のもふもこがゲオルグの大きな手を包み込む。その手触りを楽しみながら撫でていると、クロはバスケットから飛び出してふかふかの草の上に降りた。
 柔らかな肉球に触れる草の感触を楽しむと、クロは好奇心のままに森の奥へと進んでいく。
 微笑ましくクロを見守っていたゲオルグも後を追おうすると、今度はバスケットの中から蜜柑色と白の毛並みに、キラキラとした新緑の目をしたにゃんたまが飛び出した。
「トラも散歩するのか」
 やんちゃなトラが駆けていくと、今度はバスケットから白い毛玉が二つ顔を覗かせた。
「ユキとシロも降りるか?」
 バスケットの蓋を開けて覗き込むと、良く似た二匹が薄灰の鼻先をくっつけ合い、空色の目を輝かせて同時に鳴いた。
 まずは一匹、人懐っこさに定評のあるユキがバスケットから飛び出してゲオルグの足元に座る。もう一匹――甘えん坊のシロは後ろ脚で立ち上がって「降ろして?」と甘えるように鳴いている。さすが甘えん坊。可愛い。
 頬を緩めてシロを抱き上げると、シロはゲオルグの腕の中でごろごろと喉を鳴らす。
「クロとトラは先に行っているから、ユキとシロも行っておいで。ジークとミケは……」
 残っている二匹を見ると、三毛猫模様のミケはジークを抱きしめてのんびりすやすや。なんともマイペースな二匹に、ゲオルグは小さく笑う。
 ジークとミケを起こさないようにもう一度蓋をして歩き出したゲオルグは、にゃんたまたちの鳴き声が聞こえる方へと進んでいく。
「にゃっ!」
「なーぉ」
「なーぉ!」
「にゃー」
 四匹が遊んでいたのは、他の樹と比べて一際大きな大樹。
 樹が大きい分他と比べて木漏れ日も少ないが、不思議と周辺は暗くはない。それどころか通り抜ける風は明るく温かい。
「……不思議だな」
 不思議で、心落ち着く。
 これがマイナスイオン効果かと感心していると、トラがやって来てミケ達が寝ているのは別の、食べ物が入っている籠に向かって背伸びし始めた。
 背伸びしてもにゃんたまはまんまるマシュマロボディ。座っている状態と大差ないのに、必死に手を伸ばす姿が愛くるしい。
「そうだな。そろそろお昼にしようか」
 抱き上げてサンドイッチを取り出すと、トラは興味ない様子だが尻尾がぴん! と立つ。まるで「べ、別にアンタのサンドイッチが美味しそうなわけじゃないのよ! ちょっとお腹が空いてるだけなんだから!」と言わんばかりだったが、後から来たクロがトラに差し出されたサンドイッチに齧り付いたことで、慌ててトラもサンドイッチに齧り付くのだった。
「まだ沢山あるから大丈夫だぞ」
 顔を寄せ合ってサンドイッチを食べるトラとクロに、今度はチキンサラダのサンドイッチを差し出す。
 その横で「こっちにも」とばかりに鳴くのはシロ。ゲオルグの膝にふわふわもっふもふな体を擦り付ける姿は可愛く、ズボン越しに感じるぬくもりが愛おしい。
「シロはどれが良いんだ?」
「にゃ!」
 これ! とふわふわな手で近くのサンドイッチを抑えると、ゲオルグはそのサンドイッチをシロの前に置く。嬉しそうに齧り付いたシロの横で、ユキが端に入れてあったツナサンドを銜えて引っ張り出そうとしていた。
 ゲオルグはそんな姿に苦笑しながらも、一生懸命なユキを邪魔することはない。
「上手に取れたな。でも、言ってくれたら私が取るからな?」
 途中でずり落ちた具をそっと戻して頭を撫でると、ユキは「はぁい」と言うように尻尾を振った。
 それぞれが食べたいサンドイッチに嚙り付いたのを見て、ゲオルグも手を拭いてからサンドイッチに手を伸ばす。
 ふわふわとした白パンにパリッとしたレタスときゅうり。あえて厚めに切ったベーコンが、たっぷり入ったしゃきしゃきレタスと口の中で交じり合ってしっかりと旨味を感じさせつつあっさりとしていて後を引く。
 次はふわふわ卵がたっぷり入った卵サンド。ふわふわ優しい味わいの中、薄くスライスしたキュウリが主張しすぎることなく食感のアクセントとなっている。
「ん?」
 卵サンドを一つ食べ終えたところで、小さな手がゲオルグの太ももを叩いた。
 見れば先ほどまで寝ていたジークが、「僕の分は?」とばかりにゲオルグを見上げている。
「おはようジーク。まだサンドイッチは沢山あるから大丈夫だぞ」
 ジークが食べたがっていた卵サンドを一切れ差し出すと、ジークは嬉しそうに卵サンドに手を伸ばす。
 もぐもぐと幸せそうに卵サンドを食べるジークを撫でていると、不意に膝の上が少し重く温かくなる。見れば先ほどまでバスケットの中で眠っていたミケが、今度はゲオルグの膝の上で丸くなっている。
「みゃ」
 身を乗り出して取ろうとしているのはたっぷり生クリームと果物のフルーツサンド。どうやらマイペースさんは食事の楽しみ方もマイペースなようだ。

 温かいお茶――ジークたちには牛乳――と一緒にサンドイッチを食べ終えたゲオルグたちは、大樹の根本に腰掛けてのんびりしていた。
 元気いっぱい遊んで沢山食べたクロたちは、日の当たる所でぽかぽかうとうと。入れ替わるように、行きは寝ていたミケとジークがゲオルグの近くで遊んでいる。
 きっと二匹が遊び疲れるころにはみんな起きてくるだろう。そしたら今度はパウンドケーキとクッキーでお茶にしようか。
 穏やかな日差しに可愛い寝顔と楽しそうに遊ぶ可愛い家族たち。今日は何て――
「幸せな一日だな」
 ゲオルグの目元が柔らかな弧を描く。
 望んでいた余生とは少し違って時々戦いはあるけれど、ふわふわ可愛い家族と一緒に過ごす幸せな時間。
 緑の葉の中に混じる黄色や赤く色付いた葉に、季節の変化を感じる。
 寒くなったら今度は温泉に連れて行ってみようか。そんなことを考えながら、ゲオルグはジークたちを見守るのだった。

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