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イラスト詳細

海洋の友人と 三周年記念SS(夏あかね様)

作者 夏あかね
人物 夢見 ルル家
イラスト種別 三周年記念SS(サイズアップ)
納品日 2020年11月15日

4  

イラストSS

海洋逢瀬浪漫譚


「――と言うわけでデートをして欲しいのであります」
 にっこりと微笑んだルル家にソルベは「どういう訳ですか」と執務机越しに彼女を見遣る。
 基本的に『財産』を持っている男性に対して『婚活』を行うルル家が本気でないことをソルベはよくよく知っている。若くからその地位に就き数多の令嬢から婚姻を申し込まれて嫌気の差していたソルベにとってはあからさまに自分に興味が無く財産だけ見ている事を開けっ広げにして居るルル家は特段嫌いな相手ではなかった。
「いやー、実は拙者、今日は休暇でして。良く聞けば、最近はコンテュール卿は仕事仕事で休暇すら碌にとってはくれないらしいではないですか。あー、そんなにしていたら過労死しちゃうーと海洋貴族の皆さんの声に応えて『過労死警察』の拙者がやってきたわけですよ」
「貴女は宇宙警察忍者とやらではなかったのですか?」
「流石は未来の旦那様でありますね。よく覚えてる!」
「………」
 溜息を吐いたソルベは手元にあったベルを鳴らし執事へと「片付けを」と机上に散らばっていた書類の整頓を頼む。立ち上がったソルベを見送るルル家は「どこへ?」と首を傾いだ。
「用意をしてきます」
「やっぱり素直じゃないんですから」
「……デートと言っていましたね? この私とデートするのですから貴女にも相応の用意をしていただかねば」
 手を叩いたソルベの合図に反応したようにずらりとメイド達が並んでいる。「いってらっしゃい」と微笑んだソルベにルル家は「せ、拙者に何をー!?」と叫び引き摺られていった。

 ―――――
 ―――
 ――

「まあ! まあまあ! 馬子にも衣装とはこのことですわね!」
 瞳をきらりと輝かせてそう笑ったのはソルベと瓜二つの彼の妹、カヌレである。その言葉に余計のお世話アタック! と叫ぶこともしないのはルル家にとってカヌレは未来の義妹であると言う認識だからだ。
「義姉の愛らしさに仰天しましたか?」
「ええ。仰天いたしました。私のお下がりのドレスで良いものかと悩んだのですがぴったりで良かったですわ」
 カヌレが10代の頃に着用していたというそのドレスは海洋王国の海を思わせるブルーに可愛らしい花柄が踊っている。外出用に仕立てて居るためにフリルやレースは控えめなのだろう。
「折角ですもの、ルル家様に似合いのドレスを仕立てては如何でしょうか?
 お兄様とのご結婚は兎も角、此れから様々な場所で入り用でしょう? そういえば、彼の異国の地ではドレスという文化がないんですわよね。そちらの異文化も取り入れたオリエンタルなお品だと社交界でも目を引くかも!」
 海洋王国大号令が叶ってから、カヌレは神威神楽の文化にも興味を持っていたのだろう。折角だからと心を躍らせる彼女は「仕立てに参りましょう」と準備を終えたソルベに何度も懇願していた。
「構いませんが……貴女は?」
「拙者も可愛い義妹の我儘は聞かないと~と思うので」
 と、言いつつ最早デートではない。コンテュール兄妹と共に行くお出かけに変化してしまっているがそれにルル家が気付くのは、屹度全てが終わった後なのだ。
 行き先はカヌレの希望も取り入れてショッピングを終えた後、仕立て屋に向かい、その後、レストランテで食事をして帰って来るという簡単なルートになった。カヌレが何も言わなかったならば――楽だという理由はさておいて――コンテュール家所有の遊覧船で海をだらだら眺める程度になっただろう。
「それではルル家様、参りましょう! 私、リッツパークにオープンした絹物屋に行きたいのです。
 お兄様もよろしいですわよね? それから、食事まで時間がありますから林檎ジャムのワッフルも買って参りましょう?」
 デートプランを決定する為に緻密に考えていたソルベの事など構うことなくはしゃいだ調子のカヌレは「いかがかしら」とルル家ににんまりと微笑んだ。どうやらこの妹、兄とのお出かけが久々すぎてはしゃいでいるようだ。
 ルル家は「そうしましょう!」とにんまりと微笑み――義妹からの好感度は爆上がりだなと認識していた。
 林檎ジャムのワッフルをかじりながら向かうのはカヌレと共にショッピング。財布(ソルベ)はその様子を微笑ましいと眺めて居るだけだが、カヌレが財布を取り出すことはなく、全てソルベが「後ほど家の者が」と購入を行っているようだ。
 つくづく互いに甘い兄妹だが、その様子に常時でルル家もかなりの買い物を楽しんでいた。
 ヘンテコな置物や海洋名物のお土産類。染物や織物も興味があると告げればカヌレが一緒に選んでくれるのだ。極めつけは「お兄様、どう思います?」である。その一言の後、ルル家は大きな買い物袋に沢山の科を詰め込むことになった。
「さあ、ルル家様、次は仕立て屋へ! ドレスはどんなものをお持ちですか?
 お兄様は兎も角、殿方へとアプローチをするならパーティードレスも確りした者が良いと思いますの」
 神威神楽の文化を取り入れた和のアプローチも行えば異国の方にもウケると思うのです、とカヌレは楽しげである。お兄様は兎も角と言う言葉が一々入る辺り、どうやらルル家のことは未来の義姉ではなく友人という認識なのだろう。
「カヌレ殿は凄いこだわりでありますね?」
「まあ……この子は昔からこうですから。良かったのですか?
 デート、と仰っていましたからもっとリッチな体験を期待していたのではないのかと」
「あー……まあ」
 ルル家は本音を濁さずに言った。正直なことを言えば準備段階でもエステだ化粧だとコンテュール家のサービスを受けた事で其れで満足していた。これ以上となれば、コンテュール家所有の船で優雅に過ごす位なものだろうと思っていた訳だが……これでは普通の休暇と余り変わらない。
「まあ、そうした体験はまた貴女のお気が向いた際にサービスしましょう。
 貴女が付き合ってくれたことで妹がこれ程喜んでいるのです。その礼くらいはしますよ」
 やったー! とは手放しに喜ばなかった。あくまで貴族の女主人になるに相応しいと言うように「有難うございます」と優雅(当社比)に微笑むだけだ。
「お兄様? ルル家様? こっちにいらっしゃって!」
 ほらほら、と図面を手に呼び掛けるカヌレに「今行きます!」とルル家は足早に向かう。
 カヌレが選んだドレスを仕立てて貰った後、レストランテに向かい海洋の料理を楽しみながら、のんびりとした談笑を楽しんだ。
 もっぱら、カヌレが異国の話を聞きたがるのをソルベが「余り聞いては負担になるでしょう」と窘めるだけであったが――それはそれで楽しい時間であったのかもしれない。

「では、お疲れ様でした。……ああ、それと。楽しい休暇になりましたよ」
 有難うございます、と頭を下げたソルベに「私も楽しかったですわ! では、またドレスを取りに入らしてね」とカヌレはにんまりと微笑む。
 海を隔てた異国の情勢が心配だという二人は、それらが全て終わった後に顔を見せるついでに取りに来てくれと笑っていた。
「それでは、また」と手を振ってルル家はコンテュール家を後にする――ドレスに袖を通すのを楽しみにしながら。

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