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聖夜の晩餐
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グラスに注がれるシャンパンの泡。
ボトル口の鳴る音にうっとりと目を細めたヴァレーリヤに、ナプキンを腕にかけたフェリクスが苦笑した。
「ヴァレーリヤさん、あなた本当にお酒が好きなんですね」
「あら。お酒が好きなんじゃありませんわ。お酒を一緒に飲む時間が好きなのです。
冷たい鉄帝の夜を暖かい暖炉とウォッカを挟んで語り明かすことの素晴らしさを――」
「そう言ってこの前は一升瓶を抱えて路上に転がっていたそうではないか」
ぴしゃりと低い声を出すアナスタシアに、ヴァレーリヤはうっとり顔のまま固まった。
「……なぜバレたんですの」
「なぜバレないと思った」
そもそもだな、と黒い鋼の人差し指を立てて目をつぶるアナスタシア。
お説教モードだ。
「シャイネンナハトというのはかつておきた奇跡の夜を忘れぬようにと各国が停戦を約束するほどの――」
こうなると長い。
テーブルに並ぶごちそうが冷めようがなんなら夜が明けようがお説教が続くこともざらである。
ヴァレーリヤとフェリクスは顔を見合わせ、そしてそれぞれのシャンパングラスを手に取ると。
「つまり憎しみや怒りに囚われ争いに生きるよりも人々は――」
「「かんぱーーーーーい!!」」
「二人とも!?」
話を遮ってグラスをあわせ、ぐびぐびと飲み干すヴァレーリヤたち。
「ナー……アナスタシア?」
ちらりと横目に見て笑うヴァレーリヤに、アナスタシアは『しょうがないな』という顔でグラスを手に取った。
「今年も一年、お疲れ様。そして誕生日おめでとう。シャイネンナハトという聖なる日に生誕したのだ、そろそろ落ち着きと司祭としての自覚をもって――」
「「いただきまーす!」」
「二度目!?」
パンやチキンに手をつけるヴァレーリヤたち。
「これまでも、そしてこれからも、いい日になりますように! ね、アナスタシア」
「アナスタシア様」
同時に笑顔を向けられ、アナスタシアは照れるように咳払いをした。
「全く……まあ、いいだろう」
踊る暖炉の炎。
聖歌隊が外をゆく声。
窓に降り積もる雪。
フェリクスがスープに口をつけて、『おいしい』とつぶやいた。
「母は料理が下手でね。年末に故郷へ帰ると不味いスープばかり飲まされたものだよ」
「あら、今年は帰らないんですの?」
「いやあ……」
苦笑してその先をごまかすフェリクス。アナスタシアは黙って窓の外を見ていた。
その顔を見て、フェリクスは優しい笑みに変えた。
「また来年も、こうして一緒にお祝いをしましょうね」
※担当『黒筆墨汁』