イラストSS

　――アレックスは焦っていた。
　雪と風を切り、猛烈なスピードで滑り落ちていく感覚。コントロール不能な自身の状態に、息を詰まるほどに焦っていた。
　人の身を超越し、魔王と堕ちた身であったとしても、スキー初心者という事実は変えることは出来ないのである。
「――！？」
　その時、不意に盛り上がった雪のコブの上を通ってしまった。瞬間的に訪れる浮遊感に焦りは最大となる。
（着地――着地をしなくては……）
　そう思っても身体は自由に動かない。中空でバランスが崩れていき――そして接地した瞬間に身体が雪へと吸い寄せられて――見事と言わんばかりにアレックスは転ぶのだった。
「あらあら……綺麗に、そしてど派手に転んだものね」
　追従していた友人、レジーナが雪に塗れて女の子座りとなったアレックスを笑う。
「うぅ……こんなはずでは……」
「まあまあ、変な転び方して怪我しなくて良かったのだわ。ほら、立てる？」
　クスクスと笑いながらレジーナはアレックスへと手を差し出す。
「ありがとう……次こそは――」
「まだ初級コースの半ば……がんばるのだわ」
　アレックスの背を押してレジーナは滑り出す。アレックスも追いかけるように滑り出した。
　白銀のゲレンデで楽しむスキー。
　下に降りきるまでに、この場面（シーン）が繰り返されたのは、言うまでもない。

※担当『澤見夜行』