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聖夜の名残雪
聖夜の名残雪
イラストSS
暖かな店内でほてった頬に、ひんやりとした外気が心地良い。
ふたりでいる時間を長引かせたいからゆっくりと歩き、それでもまだ名残惜しくて、帰路の大通りから細い路地へと足を踏み入れた。
小道に敷かれたレンガに、幻のヒールが音を立てる。
翠玉色のイヴニングドレスは幻の女性らしいボディラインに寄り添い、華やかに裾を広げ。大きく刳った背中には、モルフォ蝶の青の翅。
エスコートするジェイクは淡いシャンパンゴールドのタキシードに、チョコレートブラウンのベスト。フォーマルなスリーピークスのポケットチーフとクロスタイも、ベストと同色にまとめて落ち着きを加え。
そんなふたりを大通りから漏れる光が浮かび上がらせる様は、光と影の画家によって描かれているが如く。
名を呼ばれて振り仰いだ幻の頤に手をかけて、ジェイクはその口唇の端に親指で触れた。
戸惑うような微かな口唇の震えが、指先から伝わる。
ほんのりと染まった幻の頬と、それを縁取る黒真珠のように艶めく髪。
内から湧きあがる衝動に、ジェイクは噛みつく勢いで顔を近寄せた。
幻の手がジェイクの胸元をそっと掴む。その胸元には蝶を模した黒真珠のピン。
ジェイクのもう片手が、幻の腰に回される。より上向いた幻の胸元に飾られているのは、狼の貌の銀細工。
それは、誰も観る人のない――
シャイネン・ナハトの、種も仕掛けもない夜深。
※担当GM『月舘 ゆき乃』