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イラスト詳細

ウィリアム・M・アステリズムの一周年記念SS『双ツ星』

作者 春野紅葉
人物 ウィリアム・M・アステリズム
イラスト種別 一周年記念SS
納品日 2018年09月17日

7  

イラストSS

 白く青い空、まだまだ幼さを残す風貌の少年は、仰ぎ見ていた。

 緑にちかく透けるような美しい青の瞳には、<星>があった。

 空より墜とされたソレは、非現実なのに、現実よりも鮮明に――或いは非現実だからこそ、強く強く、脳裏に刻み込まれた。

 いつの日か、必ずやこの手で完成させる。その魔法を、己が手で現実へと引きずり落とす。そう生涯の目標にしてしまうほどに。

 異邦より来たる旅鳥は、無知ゆえに傲慢であった。

 悲劇を憂い、喜劇を尊び、己の思う正義に真っすぐに、旅をつづけた少女は、けれどもこの混沌とした零より始まる世界にて、憧れだけでは王子様には――英雄にはなれぬのだと気付かされた。

 街の明かりを外れた小高い丘を月の光が穏やかに照らしていた。きらめく星々は月に負けずとその存在を黒の中に描いている。

 丘の上、並び立つイチイの木々の中でも一際大きく佇む木の下で、少年――ウィリアム・M・アステリズム(p3p001243)と少女――サンティール・リアン(p3p000050)が木にもたれるように座っていた。

 今日一日を二人で楽しく愉快に遊んだ最後に、ウィリアムはここに来たいと思ったのだ。

 ここは以前にも語り合った思い出の地。

 変わらぬ地平線までの丘陵と、月日の流れを証明するように動きを変えた星の輝きに、二人は懐かしさと穏やかな心地よさをもたらしていた。

 ウィリアムがいつも身に纏っているローブはそよ風に揺らぎ音を立て、高原を抜ける夜風は夏とはいえ些か肌寒さを覚えさせる。

 ウィリアムは少し昔のことを思いだしていた。

 今にも鮮明に思い出せる光景を改めて胸に秘めて、ウィリアムは歩き続けている。

 それはまだ、特異点と呼ばれるようになる前。ウィリアムは、他のことに対して興味を抱いていなかった――いや、抱けなかった。

 目標に辿り着くのに――魔術師として才を磨き、研鑽するのに、他のことなど意味がない。そう思っていたのだ。

 けれどいまは違う。幻想に来て、様々なことに触れてから、ひとも、空も、海も。昔は見向きもしなかったこの世界は、あまり広くて、素晴らしい。

 そしてきっと、この素晴らしい世界を知って教えられたことは、あの時のままでは至れない壁が来た時に、乗り越える力をくれるかもしれない。そんな気もした。

「これからもよろしくな」
 それを教えてくれた、なにものにも代え難き友人、大切な縁。そんな少女へと、ウィリアムは感謝の言葉と共に微笑んだ。

 サンティールと共に歩いた物語は、幻想に来てからの物語において、どれも色あせることのない大切な思い出になっている。

 子供のように笑って、はしゃぐこともあれば、王子様のように手を差し伸べてきたこともある。

 そんな少女の楽し気な様子は、気づけばこちらまで楽しくなっていて。どの光景もいつになっても思い出せる。

 感謝してもしきれないそんな気持ちを、ほんの少しばかり正直になって、少年は声に出した。

 

 いまはまだ、上手くそらを飛べなかろうと、サンティールは前を、空を見上げて思うのだ。この世界に来て結んだえにしの糸はいつ見ても、どれをみてもきらきらと輝かしいと。

 そんな中でも、とびきりのまぶしさを誇る一番星。

 それが隣にいるウィリアムだ。

 そう思って、隣で空を見上げる友人に、少女は笑いかける。

 首に下げた彼に貰った星の欠片。

 今はもう、その輝きこそ失っていても。

 あの日、この場所で見たその輝きは、目を閉じれば思い出せる。

「ウィルは、僕に星をくれたでしょう? だから僕はかわりに――」

 小さく、隣にいる友人へと声をかけた。

「これからも、よろしくな」

 その一言が、サティの言おうとした次にかぶさり。けれどそれは不快ではなく、どこかくすぐたいような嬉しささえあって。

「……ふふ、こちらこそ! これからも。すてきなものがいっぱい詰まったせかいを、僕がウィルにみせてあげるね!」

 サティはそう言っていつものように笑い返す。

  見上げれば、満天の星。二人はひとしきり笑いあって、やがて心地よい沈黙と共に空を見上げなおせば、静かな星の瞬きに心を穏やかに明日のことを思い描く。

 今度はどこへいこうか。

 秋空が近づいてくるから、山へ行ってみようか。

 紅葉はもちろん、秋の空は別の色、山の上から見る秋の夕日や朝日は、夏の空とはまた違った良さがある。

 それとも町に行こうか。秋と言えば食べ物の旬が多い。きっと、幻想でもそこかしこで名産料理が実りの恵みを見せてくれる。

 きっと、そのどれもが素敵なはずだ。

 一人で思い描いても素晴らしい。

 だからきっと――いや、確実に二人で行ったら絶対に面白くて忘れられない思い出が増えるはず。

 気づけば夜の肌寒ささえ忘れて、二人は夜空の下で会話に花を咲かせて、どちらが先か、ふと眠気に誘われた。

「そろそろ帰ろうか」

「あぁ、そうだな」

 あくびをひとつ。笑いあって、最後にもう一度、二人は星を見上げた。

 夜の輝きは、二人の未来にある無数の「すてきなせかい」を示すかのように、きらきらとやむことなく輝き続けている。

 片や星をこの手に掴もうと描く者。片や星の輝きを尊ぶ者。思いえがく星の意味こそ違えど、必然か偶然か結ぶことのできたえにしを、これからも大切にしていきたいと、二人は思う。星を見上げ、なぞりながら語り合うこの一時は、なにものにも代えがたい。

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