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イラスト詳細

Lumilia=Sherwoodの一周年記念SS

作者 鉄瓶ぬめぬめ
人物 Lumilia=Sherwood
イラスト種別 一周年記念SS
納品日 2018年09月17日

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イラストSS


「うみねこ、ですか?」
 Lumilia=Sherwood(p3p000381)は傍らの白い猫を撫でながら問い返す。彼女がイレギュラーと聞いたその少年は彼女にいなくなったペット探しを依頼したのだ。
「はい、色は青色、で白いぶちがついているんです」
 ふむ。Lumiliaは細い指先を形のいい小さな桃色の唇にあてて想像する。
「うみねこって、にゃあにゃあないて」
「はい」
「空を飛んで……」
「えっ? どちらかというと海を泳ぎますよね?」
「???」
 なんだか、話がかみ合わない。
「えっと、こんなのです」
 少年はバッグからクレヨンとスケッチブックを取り出し、ぺっとのうみねこの絵を描いていく。
 そこに描かれたのはちょっとおデブな、上半身は猫、下半身はイルカのような尾びれのついた『うみねこ』であった。
「これがうみねこ?」
「はい、そうです。これがうみねこです」
 話をきくと海洋のこの辺りではこの不思議な動物をうみねこと呼んでいるらしい。
 Lumiliaはそのスケッチブックを一葉受け取ると、少年の頭を撫でる。
「おねえさんにまかせてください、えっと……」
「プーカっていいます」
「プーカさんは私が見つけてきますね!」

 とは、いえ、だ。
 手掛かりはなにもない。海際の消波ブロックをぴょんぴょんと飛び移り名前を呼びながら探すが、見つからない。
 にゃーお、と相棒の白猫のアイリスがLumiliaを呼ぶ。
「なあに?」
 にゃおにゃお。
 消波ブロックの先で海から顔を出すうみねことコミュニケーションをとるアイリス。
「みつかりましたか?」
 その青いうみねこにはしろいぶちはない。それにちょっとスリムだ。
「アイリス、ちょっと違うみたい……きゃっ」
 少々気分を害してしまったのか、Lumiliaに海水を尾びれでぱしゃんとかけると、青いスリムなうみねこは海中に潜っていった。
 そのあとも、海辺をLumiliaは探すがなかなか見つからない。
 近隣のアイスクリーム売りに聞いてみる。
 みたことないねぇと店主は言う。
 でも、アイスクリームを買ってくれたら思い出すかもしれないよと、これまた商売上手なことを言われれば、Lumiliaは買うしかなくなる。
 それにちょうど歩き回って暑くて涼をとりたかったところだ。
 海沿いの堤防のある街道をアイスを食べながら歩く。
 アイリスが堤防の上を優雅に歩く姿をみていたら、自分もそうしたくなったLumiliaは白い翼をはためかせ、堤防の上を歩く。
 青い空と青い海。その接合点の水平線は遠く綿菓子のような入道雲で繋がれている。
 それがとても素敵なことに思えてLumiliaが鼻歌をうたえば、アイリスもそれにあわせるかのようにごろごろとのどを鳴らして、伴奏する。
 
 にゃおにゃお!
 アイリスがLumiliaを呼ぶように鳴く。
 Lumiliaはなあに? とアイリスの鳴くほうを見れば5匹ほどのうみねこが浜辺で天日干しになっている。
 あれも甲羅干しというのかしら? とLumiliaは疑問を抱くが、目を細めてみると青いぶちのついたおでぶのうみねこもそこに交じっていた。
「あっ! いました!」
 つい、大きな声をだせば、うみねこたちはピクリと耳をふるわせ目を覚まし海に飛び込んでしまう。
「あ……」
 せっかく見つけた手掛かりだ。見失うわけにはいかない。
 でもどうすればいいのか?
 途方にくれてアイリスを見やれば、アイリスはくいくいとカバンを鼻先でつつく。
 そのなかにあるのはともに旅をしていた師の形見。
 そうか、とLumiliaはほほ笑む。
 向こうから近づくようにすればいいのだ。
 少女は海から顔をだし、いぶかし気にみているうみねこたちにまずは挨拶をする。
「こんにちは。おどかしてすみません。私はLumilia=Sherwood といいます」
 ふわりと浜辺におりたち丁寧にお辞儀をする。うみねこたちが逃げないことを確認するとLumiliaはすう、と息を吸い、フルートの吹き口にそっと口をつける。
 ――♪ ――♪ 
 奏でられるは望郷の調べ。
 大好きだった師に教わった、大好きな曲。
 その澄んだフルートの音色は青い蒼穹に高く響く。
 うみねこたちは興味を惹かれ、近づいてくる。
 それをみたLumiliaはほほ笑み、今度は演奏する曲調を変えた。
 子猫のマーチ。そう呼ばれるその曲はまるで、子猫がつま先で歩いているような軽く、楽し気なものだ。
 にゃおにゃおにゃお。
 アイリスはそのマーチに合わせて鳴きながら、砂浜で踊るように歩く。
 うみねこたちはそのダンスにつられて海からでてくると、アイリスの周りをぴょんぴょんと飛び跳ねながら同じようにダンスを踊る。
 その様子にLumiliaはほほ笑むと、今度は小魚のポルカと呼ばれる曲を演奏する。
 撥ねるようなその曲調は明るく華やかで、うみねこたちも気に入ったようだ。
 やがて演奏が終わると、うみねこたちは尻尾を砂浜にたたきつけて喜んでいるようにみえる。これは彼らなりの拍手のようだ。
「お粗末様でした」
 言ってLumiliaがお辞儀をすると、うみねこたちは続きをねだるように、Lumiliaの白い絹糸のような髪をくいくいと引っ張る。
「きゃっ、痛いですよー」
 くだんのあおぶちうみねこもすっかりLumiliaになついてのどをくすぐればごろごろと鳴らす。
「貴方のご主人様がとても心配していましたよ? おうちにかえりませんか?」
 Lumiliaは彼にそう促すと、相棒がにゃおにゃおと通訳する。
「わわっ、一緒に帰ってくれるのですか?」
 相棒の通訳としての能力は本物のようだ。あおぶちうみねこはLumiliaの体を螺旋をえがくように登ると頭の上で鎮座する。
 足元ではアイリスがにゃおにゃおと抗議の声をあげている。どうもやきもちを妬いているようだ。
 そんな相棒をLumiliaは抱き上げ立ち上がる。
「では、うみねこのみなさん、ご清聴ありがとうございました」
 彼女は自分をとりまくうみねこたちに挨拶をすると一礼した。
 それをみてにゃあにゃあと返事をしたうみねこたちは海へと帰る。
「ではプーカさんもおうちに帰りましょう!」
 その言葉にプーカはにゃお。と一言返した。
 Lumiliaは少年に会うために、帰路につく。
 少年はとてもよろこんで、自分のペットのうみねこを抱きしめ、もう迷子になっちゃだめだぞ! と言い聞かせる。
 プーカはにゃお、とわかっているのかわかっていないのかわからないような鳴き声をあげると、少年の腕から飛び出した。
「プーカ!」
 少年がまた逃げるのかと焦る。
 プーカはよちよちとイルカのあしで不器用にLumiliaに近づくと、ゴソゴソと毛皮を探り、目的のモノを取り出した。
「なあに?」
 Lumiliaは問いかける。
 アイリスがちょいちょいとLumiliaの手をつつき、手をだせと促した。
 彼女が促されるままに手をだすと、うみねこはその小さな桃色の貝殻をLumiliaの手にのせた。
「プーカのお礼だね」
 少年が笑って言う。
「あ、ありがとうございます」
 その輝くような貝殻を日にかざせば、七色にきらめく。
「すごく、きれい」
 Lumiliaはもう一度お礼をいって、プーカと少年を見送った。
 
 それはそんな海洋での小さな小さな物語。
 思い出、といえるほど冒険があったわけではないのだけれども。
 なんとなくLumiliaにとっては特別な日だと思った。
 
 

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