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俺の家
●3-3
普久原 靖は男性である。
より正確には、自身を男性であると定義している。
普久原は現代社会の東京郊外で生まれ育ち、ありふれたオタクとして生きてきた。
少なくとも、自身の自我は、記憶は、そうであると信じている。
オタクとして、好きなジャンルは『百合』である。
百合というものを認識し、理解したときから、そこに『自分自身』は存在出来なくなった。
そこに『少なくとも精神的に男性である』自身が存在してしまえば、尊みが消えると考えたからである。
例えば『百合の間に挟まるおじさん』は、断固として許さないのだ。
自身がそうであるなど、論外である。
けれど普久原はある程度、歳を取ったオタクであり、こだわりもあれば、許容もある。
例えば。普久原は、自分自身がある日突然、美少女になることを百合であると許容しない。
そういったジャンルが存在することは許容する。
ただ『見ないようにする』のだ。
オタクにとって、棲み分けは重要だ。
陽キャのように空気は読めなくても、誰とでもすぐに打ち解けることは出来なくても――
自分自身の居場所を守るために、他者を尊重することは、どうしても必要だった。
若い頃は血気盛んになっても、己が安住の地を見つけるために、そうした寛容を努めて身につけてきた。
かつて苦手としたジャンルであっても、今ではごく自然と楽しめる程度に許容出来ているつもりだ。
食べ物にせよ、好き嫌いは克服すべきだと努力してきたのもあれば、好奇心も強かった。
その点は恵まれた精神性だったのかもしれない。
けれど、それでも受け付けないものはある。
食べたくないものは――決してゼロではない。
だから。
だからこそ。
あの言葉はショックだった。
――女性ですよ。それも美少女です。
この再現性東京2010街・希望ヶ浜で、水先案内人をしている女がそう言ったのだ。
音呂木ひよのという少女は、悩める普久原の言葉を聞いて、確かにそう述べたのだ。
お分り頂けるだろうか。
三十路を越えたおっさんが、二次元美少女百合好きのおっさんが、美少女と呼ばれたのだ。
これだけは断固として述べるが。この身体は、小僧だった頃に何よりも欲しかった身体である。
それは紛れもない事実だ。
現実を突きつけて『くれた』、あの言葉の正しさを疑う余地なんてありはしない。
けれど――
普久原 靖は男性である。
より正確には、自身を男性であると定義している。
普久原は現代社会の東京郊外で生まれ育ち、ありふれたオタクとして生きてきた。
少なくとも、自身の自我は、記憶は、そうであると信じている。
オタクとして、好きなジャンルは『百合』である。
百合というものを認識し、理解したときから、そこに『自分自身』は存在出来なくなった。
そこに『少なくとも精神的に男性である』自身が存在してしまえば、尊みが消えると考えたからである。
例えば『百合の間に挟まるおじさん』は、断固として許さないのだ。
自身がそうであるなど、論外である。
けれど普久原はある程度、歳を取ったオタクであり、こだわりもあれば、許容もある。
例えば。普久原は、自分自身がある日突然、美少女になることを百合であると許容しない。
そういったジャンルが存在することは許容する。
ただ『見ないようにする』のだ。
オタクにとって、棲み分けは重要だ。
陽キャのように空気は読めなくても、誰とでもすぐに打ち解けることは出来なくても――
自分自身の居場所を守るために、他者を尊重することは、どうしても必要だった。
若い頃は血気盛んになっても、己が安住の地を見つけるために、そうした寛容を努めて身につけてきた。
かつて苦手としたジャンルであっても、今ではごく自然と楽しめる程度に許容出来ているつもりだ。
食べ物にせよ、好き嫌いは克服すべきだと努力してきたのもあれば、好奇心も強かった。
その点は恵まれた精神性だったのかもしれない。
けれど、それでも受け付けないものはある。
食べたくないものは――決してゼロではない。
だから。
だからこそ。
あの言葉はショックだった。
――女性ですよ。それも美少女です。
この再現性東京2010街・希望ヶ浜で、水先案内人をしている女がそう言ったのだ。
音呂木ひよのという少女は、悩める普久原の言葉を聞いて、確かにそう述べたのだ。
お分り頂けるだろうか。
三十路を越えたおっさんが、二次元美少女百合好きのおっさんが、美少女と呼ばれたのだ。
これだけは断固として述べるが。この身体は、小僧だった頃に何よりも欲しかった身体である。
それは紛れもない事実だ。
現実を突きつけて『くれた』、あの言葉の正しさを疑う余地なんてありはしない。
けれど――
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え、あ。あ、あー……。
ええと。どうも……。
今の聞いてました?
ヒェッ……。