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銀嶺館
ルストの言葉は全てが間違いでも無いが、全てが正しい訳でも無い。
只、その正当性をこの男と論じ合う無意味を彼女は重々知っていた。
「……まぁ、良いです。それより本題。
『常夜』が好きにするのはそれはそれで良いでしょう。
貴方は先を越されたと憤るのでしょうが、私は私で仕掛けを進めてまいります。
第一、『勤勉なる正義』ばかりを旨とするこの国に『怠惰』は棲みかねていた。
ならば、それも人の『強欲』で良いというものではありませんか」
「……」
「それにそもそも。『他ならぬ貴方が先鋒で動き始める筈が無い』でしょう?
常夜にせよ、私にせよ同じ事。尤も、勿体をつける名優は出番すら無いかも知れませんけれどもね」
言葉にルストはもう一度「フン」と鼻を鳴らした。
己が以外の全てを軽侮し、見下すその姿はまさに『煉獄編第一位』の姿に相応しい。
己が力と階位を心から信じ切っている彼は、成る程――自称ならずとも『他とは完全に異質』になろう。
「直に舞台の幕は上がるでしょう。ネメシスの全てを巻き込む、大きな、大きな舞台の幕は。
悲喜が入り混じり、忘れられた人間性は目を覚ます。
人形達は踊り出し、整然を嫌う狂騒曲は大きな熱を帯びるでしょう。
……この国は、あの街は私にとってはこの混沌で一番許し難い。理由は、言わなくても分かるでしょうが」
ベアトリーチェは「貴方はむしろ相性が良いのでしょうけど」と言葉を結んだ。
話は概ね纏まっている。ルスト・シファーは『傲慢』の名にかけて先鋒を嫌い、ベアトリーチェ・ラ・レーテは動かなければならない理由と、動きたい理由の双方を持ち合わせている。常夜とは特に協調関係はないが、統制の綻び、国の乱れ、かの常夜はその先駆けとして丁度良い塩梅といった所なのだ。
「ああ、只一つだけ」
ベアトリーチェは赤い唇、口角を皮肉に持ち上げてルストに言う。
「貴方も余り滅多な事を言わないで。次、イノリ様に弓を引くなんて言ったら、私」
葬送の歌は欲深く、仄暗い。例えそれが同胞以上の『兄弟』だとて、女の情は止められない。
只、その正当性をこの男と論じ合う無意味を彼女は重々知っていた。
「……まぁ、良いです。それより本題。
『常夜』が好きにするのはそれはそれで良いでしょう。
貴方は先を越されたと憤るのでしょうが、私は私で仕掛けを進めてまいります。
第一、『勤勉なる正義』ばかりを旨とするこの国に『怠惰』は棲みかねていた。
ならば、それも人の『強欲』で良いというものではありませんか」
「……」
「それにそもそも。『他ならぬ貴方が先鋒で動き始める筈が無い』でしょう?
常夜にせよ、私にせよ同じ事。尤も、勿体をつける名優は出番すら無いかも知れませんけれどもね」
言葉にルストはもう一度「フン」と鼻を鳴らした。
己が以外の全てを軽侮し、見下すその姿はまさに『煉獄編第一位』の姿に相応しい。
己が力と階位を心から信じ切っている彼は、成る程――自称ならずとも『他とは完全に異質』になろう。
「直に舞台の幕は上がるでしょう。ネメシスの全てを巻き込む、大きな、大きな舞台の幕は。
悲喜が入り混じり、忘れられた人間性は目を覚ます。
人形達は踊り出し、整然を嫌う狂騒曲は大きな熱を帯びるでしょう。
……この国は、あの街は私にとってはこの混沌で一番許し難い。理由は、言わなくても分かるでしょうが」
ベアトリーチェは「貴方はむしろ相性が良いのでしょうけど」と言葉を結んだ。
話は概ね纏まっている。ルスト・シファーは『傲慢』の名にかけて先鋒を嫌い、ベアトリーチェ・ラ・レーテは動かなければならない理由と、動きたい理由の双方を持ち合わせている。常夜とは特に協調関係はないが、統制の綻び、国の乱れ、かの常夜はその先駆けとして丁度良い塩梅といった所なのだ。
「ああ、只一つだけ」
ベアトリーチェは赤い唇、口角を皮肉に持ち上げてルストに言う。
「貴方も余り滅多な事を言わないで。次、イノリ様に弓を引くなんて言ったら、私」
葬送の歌は欲深く、仄暗い。例えそれが同胞以上の『兄弟』だとて、女の情は止められない。
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