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桜杜

地下室


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(桜杜の境内を掃き清めて集めた桜の花弁と落ち葉を入れた竹籠をひっくり返して、わさぁっと水路に流す。薄暗い水路の水が薄桃色の花筏に染まった。流れていく、流れていく、花と水が流れていく。小さく寿命の短い桜の花弁の精霊が、ふわりふわりと蛍のように舞う姿と一緒に、暗闇へ溶けて消えてゆく。あの水道管のトンネルを抜けたら、桜の花弁の精霊はもう大半が亡くなっている事だろう。世界に大きな影響を与えないように力を削がれた神威の欠片は、神域を出てしまえば、ただの花だ。普通の花。だから、落ち葉と花筏だけが外の川へと……--)
「だからかな? いつ見ても幻想的なのに、儚くて美しいから、何度でも流したくなる。」
(しゃがんで膝に頬杖をついて水路をのぞき込んでいた真は、誰に聞かせるでもなく独り、言葉を零した。傍で丸まって眠る黒猫の背中を撫でて、起きた猫が花籠と戯れ始めた姿をかわいらしく思い、かすかにくすりと笑う。葉っぱと花への猫パンチを眺めて、ひょいと花籠を取り上げた。黒猫がきょとんとした顔をする。しっぽがぱたりと拗ねて、黒猫、顔を横向けた。)
「ごめん、ごめん。だけどこれは葬送の為に流すものだから、あなたの玩具にはあげられないんだ」
(真がそういって、花籠を水路に流すと、黒猫はすくっと立ち上がり。フンっと鼻を鳴らして水路脇の道を悠然と奥へ向かって歩き出す。)
「帰るの? 黒猫くん」
(黒猫が振り向いて、鋭い眼光で真を一瞥すると走り去っていった。)
「ばいばい、またね」
(真は黒猫の背中に手を振り見送った。そしてまた水路を眺めるようにしゃがみ込むと、ギフトを起動させた。今日のギフト鞄はお気に入りの『赤目の黒兎ぬいぐるみ鞄』の姿をアバターとして着せている。そのギフト鞄のうさぎのお口さんから、花籠を取り出して、次々と水路へ流していった。願いを込めて、真は逢坂之桜神さまへ宛てて柏手を打つ。)
「かしこみ、かしこみ申す――。今年も春が来たよ。起きて、桜神。花が咲いたら、花が開いたらあなたの出番。さあ、今年も一年、よき一年とできますように、健康長寿祈願、よろしくお願いします。」(二礼二拍手一礼。)

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