簡単なことであります。
　慣れろ。
　それがここで生きて行くコツであります。

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　ゼシュテルは、縦に長い国だ。
　しかも四方を他国に囲まれ争いが絶えない。
　土壌はやせ細り、南部ではある程度の自給も出来るが、北方に上がれば上がるほどそれも厳しくなってくる。
　冬は寒く、鉄騎種と言えども暖を取らねば命に係わる。
　頑強な種族であればこそ、この地に根付いた。
　頑強な種族であればこそ、自給でも貿易でもない第三の選択肢――即ち掠奪を生活の糧に出来る。
　頑強な種族であればこそ、少しでもこの生活を良くしようと戦い続けられる。
　それは大いなる矛盾であるが、もはや止められるものではない。
　そうであれども、そこにはやはり何かしらのルールは存在するのだ。

「……迷っているのでありますかねえ」
　赤煉瓦色の石畳を爪先でこつこつ叩いて、彼女――エッダ・フロールリジはこめかみを掻いた。
　待ち合わせたはずの少女がいつまで経っても来ないからだ。
　わりときっちりした印象の子だったから、まさか寝坊などではないはず。
「……探しに行くでありますか」
　そう独り言ちると、背筋を伸ばして手を目の前で組み、ピッピと歩き出した。
　既にもうそれなりに寒くなって来た。フロールリジは幻想に程近い領邦の為、それでもまだ冬支度手前と言ったところである。彼女の顔を目にして、子供や若者は興味津々に、ある程度年配の者は若干の怯えを目に宿しつつも目礼をする。それに対して全て礼を返していては日が暮れてしまうので程ほどに留めるが、唇の端をわずかに上げて威圧感を与えないようにしていた。
　赤煉瓦の道は次第に途切れがちになる。
　華やかな表通りを抜けて裏通りを進んでいく。
　空中庭園からフロールリジに直接来たとして、中央から待ち合わせ場所まで近道で来ようとすればそこを通るであろうという――薄暗くて、石畳は割れていて、道端で人が酒を飲んで寝ているような通りに、果たして目当てのものはあった。
　少女は、数人の男たちに通せんぼをされている。
　２００ｃｍはゆうに超えようとしている男の腕はその身の丈を超えるほどの巨大さであったり、１８０ｃｍほどではあるが脚はゴリゴリに改造してあったり、見た通りの闘技者くずれであることが見て取れた。
　それに対して、取り囲まれた小柄な少女が怯えるそぶりを僅かとも見せていないのが男たちの癪に触っていたようだった。それはそうだろう。いざ戦えばどちらが強いか、傍からみたエッダの目にはまざまざと良く分かるのだが――そういうものがわからない者が、こういうことをする。
　はあ。と一息、溜息を吐く。
　目を伏せ、上げた。
　相変わらず眠たげな半目をしているが、その瞳には隠しきれない感情が籠っていた。
　苛立ちと、そして怒り。
　塵が。
　塵めらがなぜ生きているのか。
　塵を見る目で、かつかつと少女へ近づく。
「おい」
　その男たちは、下の方から聞こえる女の声に、馬鹿にしたような顔をして振り向いた。
　そして即座にその表情は凍り付くことになる。
　女の両腕は、顔に現れ切らないその激情を表すようにもうもうと蒸気を吐き出していた。内燃機関が嫁動し、いまにもはち切れそうになっている。
　牙を剥くような口の形は、返答をひとつ間違えば喉笛を噛みちぎらんばかりだった。
「それは、私の客だ」
「うわ……」
「え、エーデルガルト様……」
「も、申し訳ありませんっ！！！」
　三々五々。
　男達は、尻もちを付いたりしながら無惨に逃げ散っていく。その背を無意識に追いそうになり、いかんいかんとエッダはかぶりを振った。
　展開していた腕部装甲がばしゅん、と余熱を吐き出しながら閉じ、ふぅ……と細く長い息を吐いた。
　きっと、彼女は、招いた私を気遣い極力手を出さずに済ませていてくれたのだろう。ならば、遅参は問うまい。
「改めて、シュピーゲル嬢。ようこそ鉄帝へ。
　……ああいうのは次からノしていいでありますよ」

　そう言うと、しずしずとカーテシーをした。

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●参加者向けハンドアウト
　あなたは、エッダに頼み、鉄帝国内で自分のメンテナンスの為の部品を求めに来ました。
　彼女はそれを了承し、一族の領邦に招聘しました。
　彼女は、どうやら今すごく怒っていたようです。

(逃げ去る男達をぼんやりと見送ってから)
こんにちはですな。エッダ。
こんなところで出会えるとは、待ち合わせはここでしたでしょうか？
(かくり、と首を傾けながら、トンチンカンな事を返した)

はぁ。
……いいでありますか、シュピーゲル嬢。
昼日中といえど、知らない街では人通りが多く拓けた通りを歩くように。
ああいう生き物はどこにでも湧くのでありますから。
(まるで珍しい真面目な嘆息具合。
まあいいであります、と背中を向けた)

待ち合わせ場所はここではありませんが、目当ての店はこちらの方であっているであります。
しっかりついてくるように。

(そういうと、すたすたと歩き出した)

(首を傾げながらも、素直に頷いて)
了解。
次回からは、狭路の通行を避けるよう順路設定するようにするです。
(すたすた歩き出すエッダの後ろについて歩き出し)

うむ。
……狭くて暗い道というのは、こそこそと何かをするのに都合が良い場所なのであります。
それだけでなく、住民の生活の様子や、街路の荒れなども考慮に入れなければなりません。荒れているということは行政の手の届きにくいところということであり、これもまた治安が良いとは言えない場所であります。
……こういう話は、誰かから教わったりはしなかったでありますか？

肯定。
練達においてそういった事象、事案の警告は受けておりません。
しかし、本機の作戦記録上において隘路は強襲作戦及び奇襲作戦時又はゲリラ戦法において有用であることは確認済です。
(真面目、と言うよりもレポートでも読み上げるように淡々とした口調)

……であれば、そう動け。
貴様はかかる状況下に於いて、強襲作戦及び奇襲作戦又はゲリラ戦法の危険性、その他現地住人の謂れなき妬み嫉みなどを負いやすい容姿をしている。
戦術に人の心を籠めなさい。
（相変わらずすたすたと歩く。
後をついてくるシュピーゲルの質問は、後を追うひな鳥の鳴き声にも聞こえるし、己の宿業のように聞こえた）

うゆ……。
(容姿という部分にはあまり理解してないような反応をしつつも、言葉全体として意味を捉えた様子)
つまり、この場においては警戒段階を上げよ、ということです？

小さい女は侮られやすく、そのために起こるトラブルがあり得るということ。
そしてそういう雑事にかまけて無駄にする時間を減らすための合理的判断をせよ、ということであります。
(こういう言い方を取ったのは、警戒をする、という言葉の解釈について、自分と彼女で違う可能性があると考えたから。
現状が警戒に値しない価値観で育った彼女が“警戒”したらどうなるのか、あまり考えたくはなかった。
何しろ彼女はさらに街の薄暗い、薄暗い方へと歩いているのだから)

合理的、判断……。
(キュルリと、少女の頭上に浮かぶ光環が微かに音を立てて回った)
合理的、判断。理解できます。
シュピの外観が示威的意味において効果が無い。理解できます。

……エッダの言葉と記録上の状況から判断し、先程の事象を【雑事】と仮定します。
【雑事】とは作戦的損耗要素であり、時間的価値基準に置き換えて試算してもマイナス値である。従って、そのマイナス値の補填に要する修正(プロセス)を行うならば、計画立案段階で【雑事】を予測し、回避することで、そもそもその修正(プロセス)を省略せよ。
と……いうことです？
(首を傾げながら)

その定義付けを承認する。損耗のリカバリはまた新たな損耗を産む。
理想を言えば、トラブルとはそもそも“存在しない”のが一番合理的だ。
例え、それが小指の先で消し飛ぶような羽虫のことでさえ。
……であります。
（何をやっているのだろう、と思いながら言葉を返す。
　きっと彼女は自分が人間として平易な言葉を使っても、その高度な知能で解釈し望まれた通りの答えを出すのだろうとも思っている。
　だけれども、ほんの少しこのやりとりが面白い自分もいる）

さあ、ここでありますよ。
練達の部品もさることながら、出所の怪しい鉄帝の遺跡深部からの遺産も時たま。「とりあえず何を探せばいいのか」、という時にはピッタリの場所であります。

（そうして辿り着いたのは、ぽつぽつと小さな家が立ち並ぶ地帯の、とりわけ小さな小屋だった。
　よくよく見れば、一歩踏み込めば様々な警戒システムや迎撃ドローンなどが常駐していることがわかる。
　どうやら、地下に降りようとしているらしい）

了解。
以降この事項を行動基準に考慮します。

トラブル、ですか。
作戦的瑕疵の有無についてはその後の評価値で左右されるものだとは思慮しますが。

……(ｷｭｲｨｰﾝと光環が微かな音を立てて回転する。チラリと迎撃ドローンを見た)
成る程……
(視線を外しエッダに続いて地下へ)

（縦に長い梯子を降りていく。
　自分の後を追随……するまでもなく、警戒網を抜けて見せた少女には、ほぉ、と内心舌を巻いた。やはり何か、自分ら鉄騎種とはまた違った“性能”を持っているようだ、と思ったが……それは、目の前の彼女を傷つけそうなのでなんとなくやめた。梯子を降り切り、さらに目の前にある鉄扉をごんごんごん！　と鉄の拳で叩いた。彼女の身長よりは高い所にあるのぞき窓がしゅっと開いて、そこから目が覗く。
目とエッダは随分話し込んでいた。
細かいニュアンスまでは理解しきれなくとも、目が何か難癖をつけて――それはおそらく見おぼえのない後ろの少女について――それに対してエッダが口汚い言葉で言い返していたということは理解できる。
　……不意に、扉が開いた）

……さ。
入るでありますよ

(やり取りの様子を後ろから見つめていた。水晶のように無機質な瞳は、何を考えているのか不明だ。何か言われている、と認識しているかも怪しいところだ。ただ、敵対行動か否かを機械的に判定している様子であった)

……。
(エッダの言葉に、ほんの微かに息を吸う。ちらりと、一瞬だけ何かを確認するように上を見てから、歩を進めた)

さあ。宝の山かゴミ溜めかは貴女次第でありますが（とそこで奥で頭の半分に鉄のヘルメットをビス止めしている老人が杖を振り回して怒鳴っているのでまたエッダは罵り返した）、どうぞご覧になって下さいませ。官品の横流し、遺跡の盗掘品、練達からの戦利品、よりどりみどりであります。……ちなみに、お求めなのはどんなパーツでありますか。

（筋の良くない店、というか。
　明らかに領主の血族が出入りするべきではない店に見えたが。
　それでも彼女はお構いなしという顔だった）

･･････。
（先程にやり取りを理解しているのかいないのか。ぱちくりとエッダを見つめてから、視線をパーツの山に移し）
沢山ありますが･･････特に必要なのは･･････
（動力系だと言った）
ジェネレーター、リアクターなのでしょうか･･････。
現状でも稼働に支障はないのですが、電力供給が追い付かず、反応速度の低下や一部武装の封印を余儀なくされている次第。
（平淡だった声に若干自信のない色が滲む)