ギルドスレッド スレッドの一部のみを抽出して表示しています。 Doctor's Lab 【一周年記念用】とある酒場の一幕 【艦斬り】 シグ・ローデッド (p3p000483) [2018-07-06 23:59:27] ――穏やかな音楽と共に、カラン、とグラスの中の氷が音を立てる。 褐色の液体を喉に流し込み、コトリ、と紺の髪の男がグラスを置く。 それが何を意味していたのか既に理解していたマスターが、次のグラスに、今度は琥珀色の液体を注ぐ。 ――顔に独特な刺青があったその男は、この店の常連客なのだろう。 その隣に、今度は銀髪の男が座る。まるでホストのようなスーツを着たその男にマスターが目をやると、空いた手で素早く黒い液体を空っぽのグラスへと注ぎ込む。 ――グラスが、カウンターを滑り、それぞれの客の手に渡る。「…今日は白衣ではないのかね、ローデッド氏」「私とてTPOは弁えているさ。流石に白衣は、この場には合わん」「そうか。いや、君が白衣を着た所しか、私は見た事はないのでね」「…まぁ、我らが共同作戦を執ったのはほぼあの一度のみであったからな。サーカスの一件に於いては代表として表に出ていたのはレイチェルであるし、仕方あるまい」 刺青の男――ラルフと、スーツの男――シグは、知り合いなのだろう。一斉に飲み物を煽る二人の後ろに、三人目の人影が出現していた。「てめぇら、手を挙げて金を出せぇ!」 掲げられたナイフ。だが、3人目の男がそれを掲げる前に――「「止めておきたまえ」」「…腹に穴は開けたくないだろう?」 その腹部に突き付けられた電磁砲の砲身は、義手たるラルフの腕が変化した物。「…首が飛ぶ事態は好ましくあるまい?」 その首筋に突き付けられた刃は、シグの手に融合するように接続されていた。「あ、あ…」 男の口からは言葉が出ない。 意外な反撃もさることながら、その場にいた全ての者の「冷静さ」が、彼には恐怖だった。 マスターはまるで何事もなかったかのように、グラスを磨いており。 二人の男は、片手で彼の命を脅かしながらも、普通にコップの飲み物を流し込んでいたのである。それどころか――「ラルフ。どうせ暇なのだ。この者の行動を分析してみるのも――面白いと思わんかね?」 悪魔のような提案――男にとっては、だが――が、シグの口から飛び出した。「面白いね。…で、議題はどうするんだ?」「何故この者が、こんな寂れた酒場を襲撃しようとしたか、だな」 ラルフが、暫し考え込む。「怨恨かな?」「…怨恨ならば恐らく最初から警告なしに攻撃していただろう。殺しを依頼された場合も同様である。 …金目当てかね?」「この酒場は現状、それ程客が多くないからね。…脅すなら私たちより、マスターの方じゃないか?」「ふむ…では、『命狙い以外の依頼』はどうかね?」 暫しの沈黙。「…ありうるね。仮定として、どこかの練達の魔術師が、この酒場に旅人(ウォーカー)が良く来ると聞き付け、こやつを雇った――」「成立するな。…が、その割にはあまりにも素人のようだが」「素人の方がいざと言う時見逃してくれる可能性が高い。そう考える事も出来るんじゃないか? ローデッド氏」「…ふむ。そういう意味では、我らに出会ったのは少し、この者にとっては不幸な出来事であった。…そう思わんかね?」 二人の顔に、同時に笑みが浮かぶ。「――さて、本来ならば我らには実害は無かった故、このまま返しても良いのだが……流石に情報を持ち帰られると少し面倒なのでな」 シグの言葉に、男の顔を一筋の冷や汗が伝う。「ま、まってくれ、雇い主の情報をやる。何なら連れて行ってやる、だから――」「…で、君はその雇い主の素性を知っていると言う訳だ」「そ、それは……」 どもった男のその態度で、十分に『理解』できた。 ラルフの顔からは、この男への一切の興味は、既に消え失せていた。「で、ローデッド氏。彼は何をすれば本日の失敗を避けられたと思う?」 ――相変わらず、飲み物を煽る二人。3人目の男の姿は、既にそこにはない。 有ったのは僅かに空気中を漂う、焦げた匂いのみ。「ふむ。…純粋に己が運を良くする…と言う事を除けば、『他者の実力を測る力』を鍛えておくべきだったと思われる」「…なるほど」「お前さんのアイデアはどんな感じかね?」 その瞬間。酒場のずっしりした扉が開き、さらなる来客を招き入れる。「…ここに居たのか」 シグの同居人たるレイチェルの声。だが心なしか、その声色には『怒り』が多少含まれているように見える。「ああ、レイチェル。買い物は済んだのかね?」「済んだか、じゃねぇ!」 ――シグがレイチェルを宥める間に、ラルフが聞いた話はこうだ。 吸血鬼たるレイチェルが昼間活動しにくいので、共に夜の街へと日用品の買い物に来た所、シグが一々興味を持った物に向かって寄り道するのみならず、しまいには失踪してしまったらしい。 それでレイチェルが散々探して、やっと見つけたのだとか。「やれやれ……ローデッド氏。知識を追いかけるのが重要なのは私にも分かるが、君はもう少し、人の心の機敏を理解した方が良いかもしれないね」「…そうか。努力するとしよう」 引っ張られるようにして店を出ていくシグを尻目に、ラルフは新たに、飲み物を注文する。 ――あれもあれで、苦労しそうだ。-----登場キャラクター:・シグ・ローデッド(p3p000483)・ラルフ・ザン・ネセサリー(p3p004095)・レイチェル=ヨハンナ=ベルンシュタイン(p3p000394) →詳細検索 キーワード キャラクターID 検索する キャラクターを選択してください。 « first ‹ prev 1 next › last » 戻る
褐色の液体を喉に流し込み、コトリ、と紺の髪の男がグラスを置く。
それが何を意味していたのか既に理解していたマスターが、次のグラスに、今度は琥珀色の液体を注ぐ。
――顔に独特な刺青があったその男は、この店の常連客なのだろう。
その隣に、今度は銀髪の男が座る。まるでホストのようなスーツを着たその男にマスターが目をやると、空いた手で素早く黒い液体を空っぽのグラスへと注ぎ込む。
――グラスが、カウンターを滑り、それぞれの客の手に渡る。
「…今日は白衣ではないのかね、ローデッド氏」
「私とてTPOは弁えているさ。流石に白衣は、この場には合わん」
「そうか。いや、君が白衣を着た所しか、私は見た事はないのでね」
「…まぁ、我らが共同作戦を執ったのはほぼあの一度のみであったからな。サーカスの一件に於いては代表として表に出ていたのはレイチェルであるし、仕方あるまい」
刺青の男――ラルフと、スーツの男――シグは、知り合いなのだろう。一斉に飲み物を煽る二人の後ろに、三人目の人影が出現していた。
「てめぇら、手を挙げて金を出せぇ!」
掲げられたナイフ。だが、3人目の男がそれを掲げる前に――
「「止めておきたまえ」」
「…腹に穴は開けたくないだろう?」
その腹部に突き付けられた電磁砲の砲身は、義手たるラルフの腕が変化した物。
「…首が飛ぶ事態は好ましくあるまい?」
その首筋に突き付けられた刃は、シグの手に融合するように接続されていた。
「あ、あ…」
男の口からは言葉が出ない。
意外な反撃もさることながら、その場にいた全ての者の「冷静さ」が、彼には恐怖だった。
マスターはまるで何事もなかったかのように、グラスを磨いており。
二人の男は、片手で彼の命を脅かしながらも、普通にコップの飲み物を流し込んでいたのである。それどころか――
「ラルフ。どうせ暇なのだ。この者の行動を分析してみるのも――面白いと思わんかね?」
悪魔のような提案――男にとっては、だが――が、シグの口から飛び出した。
「面白いね。…で、議題はどうするんだ?」
「何故この者が、こんな寂れた酒場を襲撃しようとしたか、だな」
ラルフが、暫し考え込む。
「怨恨かな?」
「…怨恨ならば恐らく最初から警告なしに攻撃していただろう。殺しを依頼された場合も同様である。 …金目当てかね?」
「この酒場は現状、それ程客が多くないからね。…脅すなら私たちより、マスターの方じゃないか?」
「ふむ…では、『命狙い以外の依頼』はどうかね?」
暫しの沈黙。
「…ありうるね。仮定として、どこかの練達の魔術師が、この酒場に旅人(ウォーカー)が良く来ると聞き付け、こやつを雇った――」
「成立するな。…が、その割にはあまりにも素人のようだが」
「素人の方がいざと言う時見逃してくれる可能性が高い。そう考える事も出来るんじゃないか? ローデッド氏」
「…ふむ。そういう意味では、我らに出会ったのは少し、この者にとっては不幸な出来事であった。…そう思わんかね?」
二人の顔に、同時に笑みが浮かぶ。
「――さて、本来ならば我らには実害は無かった故、このまま返しても良いのだが……流石に情報を持ち帰られると少し面倒なのでな」
シグの言葉に、男の顔を一筋の冷や汗が伝う。
「ま、まってくれ、雇い主の情報をやる。何なら連れて行ってやる、だから――」
「…で、君はその雇い主の素性を知っていると言う訳だ」
「そ、それは……」
どもった男のその態度で、十分に『理解』できた。
ラルフの顔からは、この男への一切の興味は、既に消え失せていた。
「で、ローデッド氏。彼は何をすれば本日の失敗を避けられたと思う?」
――相変わらず、飲み物を煽る二人。3人目の男の姿は、既にそこにはない。
有ったのは僅かに空気中を漂う、焦げた匂いのみ。
「ふむ。…純粋に己が運を良くする…と言う事を除けば、『他者の実力を測る力』を鍛えておくべきだったと思われる」
「…なるほど」
「お前さんのアイデアはどんな感じかね?」
その瞬間。酒場のずっしりした扉が開き、さらなる来客を招き入れる。
「…ここに居たのか」
シグの同居人たるレイチェルの声。だが心なしか、その声色には『怒り』が多少含まれているように見える。
「ああ、レイチェル。買い物は済んだのかね?」
「済んだか、じゃねぇ!」
――シグがレイチェルを宥める間に、ラルフが聞いた話はこうだ。
吸血鬼たるレイチェルが昼間活動しにくいので、共に夜の街へと日用品の買い物に来た所、シグが一々興味を持った物に向かって寄り道するのみならず、しまいには失踪してしまったらしい。
それでレイチェルが散々探して、やっと見つけたのだとか。
「やれやれ……ローデッド氏。知識を追いかけるのが重要なのは私にも分かるが、君はもう少し、人の心の機敏を理解した方が良いかもしれないね」
「…そうか。努力するとしよう」
引っ張られるようにして店を出ていくシグを尻目に、ラルフは新たに、飲み物を注文する。
――あれもあれで、苦労しそうだ。
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登場キャラクター:
・シグ・ローデッド(p3p000483)
・ラルフ・ザン・ネセサリー(p3p004095)
・レイチェル=ヨハンナ=ベルンシュタイン(p3p000394)