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Doctor's Lab

【PPP3周年】ファーレル領にて

「この度は遠路はるばる、ありがとう」
「何。私としても新たな国を見るのは新たな『知識』を得るという事と同意であり、嫌いではないのでな。お招き、感謝である」
 ベネディクトが差し出された手を、握り返すシグ。

 二人が最初に向かったのは、周囲で一番高い建物、その頂上。
「――ふむ。民の生活は安定しているようだな」
「ああ、皆の努力のお陰でね」
 屋根上に立つシグに、下の窓からベネディクトが応える。
「――然し、領主の館で休んでからにしよう、と思っていたんだけど、先に街の様子を見たいと言われた時は少し驚いた」
「……お前さんの施政が劣悪であったのならば、このまま帰るつもりであったからな」
「俺も試されていた訳か」
 お互い、笑い合う。

「然し、この地は平和そのもののように見える。…私を呼ぶような用事があるようには思えんが?」
「……まぁ、見てもらった方が早いか」
 領主の館で暫し休憩した後、広げた机の上には、白い粉が。
「…薬物の類か?」
 シグの指から銀の雫が垂れ落ち、粉に触れれば、たちまち銀は黒に変わる。
「…ふむ。幻覚と興奮効果…ありきたりではあるな」
「出所は分かるか?」
「いや、余りにもありきたりで、色んな可能性がありすぎる。…これが今回の『用事』かね?」
「ああ、これを売っている組織を壊滅させたい」
 ベネディクトのその言に、シグは不思議そうに顎に手を当てた。
「お前さんには有能な部下もいる。彼らも使って捜索を行い、普通に潰せばいいのではないかね?」
「余り、彼らには苦労は掛けたくない」
 少し、ベネディクトが言い淀む。
「新しく継いだこの領地。様々な不満や問題を解決するために、皆は既に日夜奔走している。これ以上は…」
「なるほど、お前さんらしい。…了解した」
 シグの口角が釣り上がる。
「――だが、お前さん自身には手伝ってもらうぞ?」

 ――次の日の夜。
「…やれやれ。領主様、それも婚約中であるお前さんが、屋敷を抜け出すのは相当難易度が高いと見える」
「…見ていたのか」
 苦笑いするベネディクト。
「いや?だが、お前さんの置かれている状況や、リースリットやお前さんなどの性格を考慮すれば、推測に難しくはないだろうさ」
 フフッと笑いを浮かべ――
「目標の者たちは、今我らの下にいる3人で宜しいかね?」
「ああ、そこのバッグに入っているのが――」
「例の薬か。――ふむ、これは都合がいい。武器類も一緒に運んでいるようだな。」
「俺が踏み込もうとすれば、奴らは俺が扉を割る前に証拠品を全部消そうとするか、首謀者を逃がそうとするだろうからな。だから――」
「それを止めれば良いのだな? …任せてくれたまえ」
 スーッと、シグの姿が剣に変われば、そのまま建物の天井を通り抜ける。

「おい、そろそろ帰るぞ…ん?どうした」
「アニキ、うちらが受け取った武器に、あんな剣ありましたっけ?」
「どんな武器だろうと、使えりゃいい。気にすんなよ」
 そう言って、男たちが席を立つ。
 その後ろ、屋根上を、黒い影が追跡する――

「今日の分の品物、持ってきましたぜ」
「へへっ、どれどれ――何だァ!?」
 暗い部屋の中。一同の頭らしき男が、品を検めようとしたその瞬間。けたたましいノックの音が伝わる。
「アニキ!怪しいマントの男が入口に――」
「チッ、新しい領主の息の掛かった密偵かも知れねぇ。おめぇら、品物を廃棄する用意を――」
「…そうはさせられんな」
 その「品物」の中から、声が響いた。

 一閃。銀の糸が伸ばされた男たちの手を引き裂き、悲鳴をあげさせる。
「な、何だとォ!?」
「今回の品物は、毒混じり…と言った所だ」
 目の前に突如として現れた銀髪の男――シグに、混乱した男が後退、扉から逃げようとする。
「逃がしはしないぞ」
 背中に、突き付けられる槍。
 フードのその下の顔を見た男に、絶望の表情が浮かんだ。

「物証あり。それも領主の俺直々の確認だ。言い逃れはできない」

 かくして、また一つ。領地の「問題」が解決される事となったのである。

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ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)との「有り得たかも知れない」一幕である。

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