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solavix

蒼穹のもとにて


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(永い眠りから醒めたような、そんな気分だった。瞼を刺す強い光に瞳を開ければ、雲一つない空が視界いっぱいに広がっていた)……。地獄に堕ちたものだとばかり思っていたが、存外善行を積んでいたということかね? まさか天に召されることになろうとは。(意識のもとでは、己の肉体は朽ちたはずだった。なんとなれば、ここは死後の世界なのだろうと、そう考えていた)
この私と縁を結んだ者が、ただの善人なわけがないと思うのですよ。
……目は覚めましたか。マスター?
マスターだ? 天国には召使いでも付いているのかね。(訝しそうな目を向ければ、先には娘がいた) 
信仰なんて捨てればいいのにと、何十年も言い続けてるのに。(ため息混じりに首を鳴らす。黒の瞳を覗き込めば、懐かしい理性の光が目にとまった)ええもう、メイドがお好みですか?召使いでもハウスキーパーでも結構ですけれど。その前に鏡か何かご覧なさいな。
ふむ、その口振りに態度……そういう訳ではあるまいな。(首を捻りながらも、懐から時計を取り出して蓋裏の鏡で顔を映した)何と……! (そこにあった顔は、老いて皺だらけになった老人のものではなく、若々しい青年のそれであった) いったい、どうなっているのだ。君、何が起こっているのか分かるかね。(同様故か、学者としては致命的な失態を犯していた。まさか、裡から湧き出た疑問をそのまま考えもせず他人にぶつけるなど、本来ならば考えられない)
エダルド・ウーベリィッツ・ツィム・ホッフェ。
はじめてあった時のままだわ。
皺くちゃで、シミだらけになってしまったする姿も素敵だったけれど。
(にこりと微笑み踵を返す。腰の後ろで組んだ両手をゆらゆらと揺らし)
ねぇ、叡智に殉じた愛しの貴方。
星辰をたどり、信仰を糧とし、知の徒として闇の海へと沈んだ貴方。
自分で出した答えはどこ?
(男に対しくるり、と向き直った)
でもね、私は優しいからヒントをあげるわ。私はだあれ?
わからないようなら、見捨てちゃうんだから。
なに……。(老人となった己の顔を知っているのはいい。これでもそれなりに顔の売れた学者であったから、著書を読んだ人間なら、己の講義を受けた者ならば知っていてもおかしくはないはずだ。だが――下手をすれば曾孫のような年頃のこの娘が、若返ったこの顔を知っているように語るとは如何なる事か)
(何より、己の生涯をまるでよく見知ったかのように語るこの姿はなんだ。まるで、二十歳そこそこの頃より連れ立ったかのように)
(妻ではあり得ない。そもそも、結婚したのは三十に近くなってからだった)
(ならば……導き出される答えは一つしかなかった)
我ながら馬鹿げた答であるとは思うのだが、どう論理的に考えても他の解を導き出せぬ以上、真実なのだろうな。『我が生涯における最高の宝物』よ。まさか、人格を持っているとは思わなかったが。
やっぱり変わらないのね、口下手なようでいて、口説き上手なところ。
奥さんにバレたら怒られるわよ?
(くすりと笑い、どこからか一冊の本を取り出して)
えぇ、名もなき毒。一冊の祭祀書が私の本体。
元の場所では、手足もなく思考するだけで終わっていたのだけれど。
(言葉を切って蒼穹を振り仰げば、一筋の風が髪を揺らした)
ふん、妻に怒られる……か。そんなもの、とうの昔に通った道だ。今でも思い出すとも。「私を取るか、その本を取るか、どっちかになさい!」と、な。懐かしい話だ。(とうの昔に死別した女の顔を脳裏に描こうとしたが、遠い記憶はもはや確かな像を結ぶことができなくなっていた)
そうだ、それだ。祭祀書だったのだな……。我が生涯を掛けてなお解読の断片すら掴めなかったそれは。死んだ後で答え合わせが出来たとは、喜ばしいのやら不甲斐ないやら。(ため息を吐いた)いや、死んではいないのだったか。
しかし、そうだとすれば……老いた筈のこの身が若返り、手足なき書物が人の姿を得る。一体、これはいかなる事態なのかね。分かるかね? あー……。(目の前の娘に問おうとして、いまだその名を知らぬ事に思い至った。本の名で呼ばおうにも、その表題すら読むことができなかったのであった)
懐かしい。結局どっちも選べず傍においてたあたり、大したタマだと思ったものよ。
(男の傍らに腰を下ろし瞼を閉じれば古の記録が鮮明に思い出せた。まだ装丁もない、ただの粘土板だった頃の記録)

なんの学もない馬鹿たちが大真面目に記した祈りの杖、星空へと仮託した願いの断片。神だとか、そんなものを祀っていたわけではないけどね。
(ふと、笑いが込み上げた。既に老境をとうに迎えた男が惑っている有様が可笑しくなったのだ)
どうしたの、エダルド。私の所有者?
選べるものかね。……いや、篇帙ならばともかく、そのような形を取った君を相手に言ったならば、また怒られてしまうか。
(女の笑みを含んだ声音に、気持ちを落ち着かせた。いつまでも動揺したままでは沽券に関わるのだ)……先にも言った通り、結局の所、私たちはそれを読み解く糸口すら掴むことができなかった訳だ。であるからして、その、なんだ。君をどう呼ぶべきであるか、とな。綴じられたものである以上、表題を、名を持っているのだろう?
(男の質問に口端を歪めた)
……ねぇ。エダルド。貴方はサンタに宛てた願い事を名付けるかしら。
神の家でもらった紙束に名前をつける?
もしかしたらするかもしれないわね。意外と几帳面だもの。
……でもね、多くの人はそうではないの。そういうことよ。
(深く息を吐いた)
なるほどな。私がどうだったかはともかくとして、言わんとする事は理解した。
しかし、そんな姿になってしまった以上、そうも言っていられないのではないのかね?
まぁ、ね。
例えばこの体が一冊の本だったなら、名前なんていらなかった。
私に欲も理性もなく、ただの肉人形でいられたのならどんなに楽だったでしょうね。
でも、そうじゃないのよね。貴方の言う通りよ、エダルド。
それでは、己を識別すべき名を定めねばなるまい。君自身がいみじくも言った通り、肉人形ならぬ叡智を湛えた存在であるというならば、自らの名乗りくらいは自分で考えられよう。それとも、私が何らかの名を付けた方が良いのかね?
自ら世界に名乗りをあげるだなんて、趣味じゃないわ。私、淑やかで通っているのだもの。(けらけらと声を上げて)
……ねぇ、エダルド。貴方がいいわ。
私を世界と結ぶ徴。この世界であげる産声は、貴方が決めてくれるかしら。暗い箱から見つけてくれた愛しい貴方。
ふむ……。(こつこつと、ステッキの音を響かせて。男はゆっくりと往復をはじめた。昔から、何かを考えるときの、この者の癖であった)
では、そうさな。ネミィ、でどうだ。中アカニエ語で「麗しき者」という意味になる。
(一瞬見開いた目を伏せ、笑ってみせた。片手で摘んだスカートの端をゆっくりとはためかせ)
……ふふ、お上手。
あの若者がどこでそういうの覚えたのかしらね。
(そのままくるりと後ろを向いて)
……ねぇ、エダルド。
何、甘く見てもらっては困るな。確かに姿こそ昔に戻ってはいるが、ここまでは若返ってはおらんのだから。(帽子の上から頭をこつこつと叩いて答えた)
なんだね、ネミィ。(振り向いた顔、その瞳に視線をあわせて)
ありがとう。私がネミィ。貴方の物よ。
……なあんて、こんなことを言っても喜ばないのでしょうね。
そんなこと、当然だろう。(右手で顎髭をしごきつつ言い放った)いかに読み解くことができなかったとて、あの日以来、私のものなのだから。
あらやだ。自分の女にでもするつもり?
(くすりと笑ってつづけた)
名札をつけた気持ちはどう?なんて問いたいところではあるのだけれど。
(そんな場合じゃなさそうよね、と穏やかな瞳を見据え)
それも良いかも知れないな。丁度気力も充実したところだ。(真面目な顔で語ってみせたが、笑う瞳がそれを冗談だと主張していた)
そうだな……見たまえ。君、あのような地形を見たことはあるかね。(空中庭園の端から遥か眼下を見下ろした。視界に広がっていたのは見覚えのない形をした大地である)
(男の冗談を鼻で笑ってみせた。瞳を見ればそんなものはわかるものだ)
……まさか、ね。「私の中」にもあんな情報なんてない。
残念ね、折角いいところを見せるチャンスだったのに。
(鼻で笑った女の反応に、軽く肩をすくめた)
それこそまさか、だ。君すら知らぬとなると、やはりここはあらゆる既知世界の外……全くの新天地ということか。それが分かっただけでも大した収穫というものだよ。

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