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足女の居る宿

銀砂通り・喫茶店

かつて銀の取引でにぎわっていた通りの一角。古本屋と軽食屋が並ぶ中にその店はあった。
扉は飴色のニスでつやつやして、はめ込まれた色ガラスの向こうでは気難しそうなマスターがグラスを磨いている。
扉を開ければ染みついたコーヒーの香りが出迎えるだろう。

しかし、この店の名物はコーヒーではない。
マスターが気難しく、偏屈であるがゆえに極めた製菓技術、その粋、「完全(パルフェ)」の名を冠する甘味こそ、訪れる客の大半が求める品である。

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(微笑みが、じわりと固くなる。
先ほどの驚きに固まるのとは別に、甘く輝いていた胸の内に一筋インクを垂らされるような感覚。)

……そう、ですか。

(微笑んだまま思考が止まる。
思考が理論が真っ白に溶けて、それで――。

見せつけられたような気がする、ジョセフと自分自身との遥かな断絶を。
一番に思ったのはそれだった。
心臓の裏側から我儘な自分自身が爪を立てる。
怒りと屈辱のままに己の心臓を抉り出し叩きつけてやろうかと思った。

次に思ったのは、それをどうしても乗り越えることが出来ないという確信だ。
オラボナ=ヒールド=テゴスはジョセフ・ハイマンの欲望を解放した。
沁入:礼拝はどうした。
何も実績がない。ただただ自己満足にジョセフを連れ歩くだけでなにも。

三つめは出てくる前に飲んだ。

楽しい時間を続けなくてはならない。)

だから、ジョセフ様にとっては心臓は大事なもの、ですのね。
親愛なる方からもらった特別の証ですもの、大切に思うのは当然の事ですわ。
……私が言うのもなんですけれど、あの方は方々に親密な方がいらっしゃるけれど――きっとそこまで気にかけていらっしゃるのはジョセフ様だけ。
そのように思います。

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