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足女の居る宿

銀砂通り・喫茶店

かつて銀の取引でにぎわっていた通りの一角。古本屋と軽食屋が並ぶ中にその店はあった。
扉は飴色のニスでつやつやして、はめ込まれた色ガラスの向こうでは気難しそうなマスターがグラスを磨いている。
扉を開ければ染みついたコーヒーの香りが出迎えるだろう。

しかし、この店の名物はコーヒーではない。
マスターが気難しく、偏屈であるがゆえに極めた製菓技術、その粋、「完全(パルフェ)」の名を冠する甘味こそ、訪れる客の大半が求める品である。

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ふ、ふふふふ。

(つられて笑う。緊張がほぐれると共に丸まっていた背中も伸びていく。
そう、緊張していたのだ。礼拝の顔を見ていると、唾液がいつもより多く分泌されていくのに何故だか喉が渇く。呼吸が深く遅くなっていくのに心臓の鼓動の間隔が短くなる。これはきっと、緊張していたのだ。)

すばらしいな。クリームはきめ細やかで、口の中でするりと溶けて、あと味はまろやかで。
そして果実のなんとみずみずしいことか!

(甘味を補給したおかげだろうか、強ばっていた口が、舌が回転を取り戻す。)

桃も、苺も好きか。そうか、そうか。
私は大体のものは何でも食べる。何でも好きだ。……と思っていたが、これはある意味無関心の現れだったのかもな。君のそんな、心底幸福そうな顔を見ているとそう思う。

(仮面越しに見つめ返す。視線をやさしく絡めるように。)

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