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足女の居る宿

銀砂通り・喫茶店

かつて銀の取引でにぎわっていた通りの一角。古本屋と軽食屋が並ぶ中にその店はあった。
扉は飴色のニスでつやつやして、はめ込まれた色ガラスの向こうでは気難しそうなマスターがグラスを磨いている。
扉を開ければ染みついたコーヒーの香りが出迎えるだろう。

しかし、この店の名物はコーヒーではない。
マスターが気難しく、偏屈であるがゆえに極めた製菓技術、その粋、「完全(パルフェ)」の名を冠する甘味こそ、訪れる客の大半が求める品である。

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(まず目を引くのは紅と桃色がかった白の二色の苺。見慣れぬ白い苺に暫し、これも旅人が持ち込んだものかと思案する。しかしそれも一瞬のこと。すぐに思考は繊細かつ華やかなパフェの美しさに支配された。
こちらの果実も薔薇の形に細工されている。小ぶりな果実を潰さずどうやってここまで細工したのか。低く縁が大きく拡がったグラスに二色の苺が盛られた様は、まるで薔薇咲き乱れる花束のよう。)

んん……。

(仮面の下で目が眩む。儚いもの、脆いものは苦手だ。乱して、掻き回して、暴虐に晒してしまいたくなってしまう。
しかし衝動を押し留める。それよりも、今は儚い美をそっと愛でよう。)

……ああ、よく分かるよ。どうしたものか。このままずっと愛でていたいものだ。しかし……『これ』はそうもいかない。
ああ、困ったものだ。

(パフェと、パフェ。そしてそれをうっとりと見つめる鏡のような黒い瞳。さまよう視線を仮面で隠す。)

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