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足女の居る宿

郊外・渓流沿い集落

ひらひらと、黒い羽根のとんぼが飛んでいた。
青い空にはぽっかりと千切れ雲が浮かんで遥か彼方を流れている。

貴方の傍らの少女はつば広の帽子をかぶってらしくもなく歯を見せて笑う。

遠くにはせせらぎの音。
天頂に座す光の中、木々の木漏れ日の向こうで魚が大きく跳ねた。

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(仮面の下で目を細める。萌える緑の瞳に宿るのは『信頼』『敬慕』。そして──『崇拝』。
彼の目が、精神が、礼拝の姿を見つめ、脳髄に焼き付ける。しかし、理解には程遠い。彼は彼の解釈を信じる。
薄れ行く夏の日差し。じわりと這い寄る夕闇。その中で礼拝は輝いている。彼が見るのは彼の理想に包み込まれた礼拝の姿。薄絹のような、陽炎のような、危うく儚い理想。)

私も……私も嬉しいよ。

(この悦びをどう伝えよう。必死に思考を回すが発声に繋がらない。
だからせめてと、礼拝が掌に頬を擦り付けたお返しにと、手を頬に添えたまま親指だけを動かして礼拝の頬を撫でた。
彼女の微笑み。甘える仕草。そして、幸福に満ちた言葉。それらは甘い痺れと目眩のような感覚を彼に齎した。新鮮な感覚に酔った脳髄で感情を処理出来る筈もなく、複雑に乱れ絡み混ざった好意的感情は全て『崇拝』と『信仰』の間に置かれた。
即ち、彼が故郷で最も重んじていた感情……いや、重んじるべきと刷り込まれた感情の隙間に。)

嬉しい。嬉しいんだ。でも、僕はより多くを求めてしまう。欲深い。罪深いことだ。
私は……君をもっと喜ばせたくなってしまったんだ。君の瞳、君の貌、君の言葉は……ひどく、僕を惑わせる。

(彼は大柄な身体に窮屈に曲げて、礼拝の顔を覗き見つめるだろう。そして礼拝が拒否しなければ、彼女の顔がより見えるように、そして絹のような手触りを愉しむ為に、彼女の髪を掌で撫で、指で梳き流すだろう。)

礼拝の喜びが私と僕の悦びだ。
教えておくれよ。君は何を望む。満たされたなんて言わないで。

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