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足女の居る宿

灯が消えた宿

闇の帳のその向こう。
湿った石畳と酒気と汚濁の匂い。

狂おしい時間が過ぎて夜も眠りに入ったその時間。
灯が消えた宿の鍵が開いている。
扉をくぐれば水の様に張り付く闇の向こうの薄明かり。
その先で、少女のような形をした人形があなたを待ち受けていた。

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(女は真正面から緑色の瞳を見つめていた。
これでもし止まらなかったとして、同じ手はもう通じないだろう。そうすればもはや自分に後はない。否、愛がどれだけ捩じれても性に関しては潔癖であったあの様子、もしかして徒に「女という性への不信感」だけを植え付けた可能性もある。
傷を、痛みを、過去を塞ごうとして逆に引き裂いたなど笑い話にもならない。
目の前で点滅する最悪の結末。張り詰める精神。
だからこそ、たどたどしい謝罪の言葉に全身の力が抜けた。)

はい、いいえ、良いのです。

(肺に溜めていた空気を吐き出し、瞬きすら惜しんでいた瞼を閉じる、危機の前に消えていた体の感覚が戻ってくる。
押し倒された時の背中の痛み、虚脱感を覚える程の疲労。――口の中に残る感触、味。
口腔の広さも、歯列も押し返してくる舌の筋肉のしなやかさも、舌下に隠された襞の位置も覚えている。次はもっと上手くできるだろう。
きっと、自分が不用意な発言さえしなければ、これを知る事は無かったかもしれない。でも、もし、知れるとしたら、今よりずっともっと穏やかな状態で、互いに加害者でも被害者でもなく、あんな顔もさせなくて……。

口の中に溜まっていた最後の唾液を嚥下して、再び目を開いた。)

貴方だけのせいではありません。
私は、私は貴方を許します。許しますとも。

(でも、貴方は自分を許せないのでしょうね。

伏せられた緑の瞳を直視するのが辛くて目を逸らした。目を逸らした先にも血がにじむ手のひらがあって逃げられなかったけれど。
いつもならさらさらと出てくる慰めの言葉が詰まる。
ここを鎮痛しては、いけない。
暴行に至ろうとした「後悔」も己を壊そうとしてしまった「恐怖」も薄れさせてはならない。
勘違いの決意で礼拝は口を閉ざす。)

よろしいのですよ。驚かせたでしょう。

(かろうじてそれだけは返した。
しかし、沈黙が長引くほど体が泥濘に落ちたかのように力を失っていく。
そういえば、もう何時間起きているだろう。
朝、身支度をして、店の準備をして、今日は昼から客を取って夜中に帰し、それからジョセフを迎える準備をして――。
それらが横になった事で全身に降りかかっていた。先ほどまで極度の緊張状態にあり、それが解けたのも効いた。
瞬きの回数が増える。急いで瞼を開ける回数も。)

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