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足女の居る宿

灯が消えた宿

闇の帳のその向こう。
湿った石畳と酒気と汚濁の匂い。

狂おしい時間が過ぎて夜も眠りに入ったその時間。
灯が消えた宿の鍵が開いている。
扉をくぐれば水の様に張り付く闇の向こうの薄明かり。
その先で、少女のような形をした人形があなたを待ち受けていた。

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(礼拝を抱き締めた時、彼は己の奥底から滾々と湧き上がる衝動に翻弄され苦悩していた。
礼拝を抱き上げた時、彼はそのあまりの軽さに霞を掴んだのではないかと錯覚し驚愕した。
礼拝を押し倒した時、彼は得も言われぬ高揚感に酔い痴れていた。彼女を壊したくないと願った事さえも忘れる程に。)

(軽く、小さな肉体に馬乗りになり、見下ろし、勝ち誇る。血が滾る。脳内物質が溢れ出る。思考が加速する。
ああ、これからこの肉体を蹂躙するのだ。破壊するのだ。私の『愛』を齎すのだ。
徹底的に。一方的に。この手が触れていない部分が無くなるほどに。この美しく完璧に組み上げられた異端の肉体を解いて侵して辱める。彼女を作り上げた文化を、世界を、貶めてやる。
さあ、先ずはどうしようか。耳元で『愛』の言葉を囁きながら、床の上に広がり流れる艷やかな髪に触れ、儚く小さな身の震えと絹のような指通りを愉しもうか。それとも細部まで拘り抜かれたこの脚に触れ、惜しみ無い称賛の言葉を捧げようか。この場所への称賛の言葉など聞き慣れているだろう。私は違う。私は皮膚組織に隠された奥の奥まで愛することが出来る。ともすれば醜い、悍しいなどと言い表されがちな領域まで。いや。いや。違う。きっと、張り巡らされた血管の流れ、筋の張りまで彼女は美しいだろう。
ああ、ならば。それならば)

(回転する思考。永遠にして瞬間。しかし、その滑らかな回転は礼拝の行為によって断ち切られた。
力で振り払うことは容易い。ああ、だが、出来なかった。司令塔たる頭脳に満ちるのは混乱でも衝動でもない。無だ。破壊的、暴力的な衝動も何もかも、漂白されて無になった。
それは未知の極地。恐れ、避け続けたもの。

手脚が棒のように硬直し使い物にならなくなる。体温が急激に上昇する。眼の前がぐらりと揺れる。
一拍遅れて、彼は悲鳴をあげた。喉の奥で、声にも満たないか細い響き。
それ以外、為す術もない。)

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