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足女の居る宿

灯が消えた宿

闇の帳のその向こう。
湿った石畳と酒気と汚濁の匂い。

狂おしい時間が過ぎて夜も眠りに入ったその時間。
灯が消えた宿の鍵が開いている。
扉をくぐれば水の様に張り付く闇の向こうの薄明かり。
その先で、少女のような形をした人形があなたを待ち受けていた。

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はじめて?

(眉を顰める。双眸が細まる。緑色の瞳が微かに翳る。)

本当なのか?何故だ?どうして?こんなにもきれいなのに。
だって、君は……。

(『完璧に造られているじゃあないか』
続く言葉を呑み込む。
言ってしまっても構わない筈だ。礼拝は自らの在り方を受け入れている。道具、人形、造られたものとしての己を。それどころか、誇りに思うとまで言い切った。
しかし、言わなかった。言えなかった。何故だろう。何かが引っ掛かった。)

……君も、鏡で見てみたらいい。私だけが見ていては損だ。知らずにいてはいけない。
だが、お望みならば、もっと見よう。もっと覗こう。
君の瞳は本当にきれいだ。こうやって覗けば、もっと奥、もっと深みが見えそうな気がする。

(目元の筋肉を緩める。僅かに翳った緑の瞳が、再び礼拝を真っ直ぐに覗き込む。)

君は、触れることで君を教えてくれた。
君が僕のことを知りたいのなら、僕もそうしてみよう。
触れてもいいかな。手だけじゃない。頬だけじゃない。君の肉体に。

(礼拝の頬に添えていた手を緩く広げる。小さな顔を、頭を包むように。
そこで彼は気がついた。己の中で引っ掛かっていた何かに。沈黙し、硬直した彼女の姿を見た時生じた己の傲慢で独善的な感情に。)

君に僕を齎したい。君の中に僕を。そして……。

(君を『人間』にしてしまいたい。
道具でも、人形でも、創造物でもない。君が思う君に変化を与えたい。最大限の印を、痕を、愉悦を、苦痛を。これは否定だ。侵略だ。冒涜だ。赦されざる行為だ。
そして、最大限の、歪んだ好意である。)

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