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足女の居る宿

灯が消えた宿

闇の帳のその向こう。
湿った石畳と酒気と汚濁の匂い。

狂おしい時間が過ぎて夜も眠りに入ったその時間。
灯が消えた宿の鍵が開いている。
扉をくぐれば水の様に張り付く闇の向こうの薄明かり。
その先で、少女のような形をした人形があなたを待ち受けていた。

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(礼拝の手を見る。
綺麗な手だ。その肌は傷一つなく、白く、柔らかそうだ。ああ、なんてか細い指だろう。こんなものが己を撫でていたのか。こんな、脆く、儚げなものが。
大きく、無骨で、傷だらけの手を伸ばす。
先ずは指先から。そっと触れ、なぞる。細い指を、滑らかな甲を、柔らかな皮膚を。先ずは輪郭を確かめ、形を覚えるために。)

手に……触れる。
触れて……覚える。温める。

(ヒトの手指は敏感で繊細で精密だ。高度に発達した手指によってヒトは霊長にまで登り詰めた。礼拝を創り出したのもまた、手指であろう。
手指はヒトの共通の武器だ。そして、共通の弱点である。
彼は多くの手指に触れ、そして、破壊してきた。捻り、折り、潰し、断ってきた。それらは彼の記憶に残りはしなかった。輪郭を確かめる前に傷つけ、形を覚える前に壊した。温めるなど以ての外。)

なんて頼りない手だ。こんなもの、一捻りじゃあないか。

(傷だらけの手は礼拝の手を包み込み、捕らえるだろう。指は徐々に遠慮を捨て、絡みつき、隅々まで探り廻るだろう。侵略し、征服するように。
同時に、己の中に刻み込む。礼拝の感触を、低い体温を、彼女の構造を。)

……肉のつぎはぎ。存在しない子供時代。そうか。そうだった。君は人形か。
何でもいい。小さな事でも。何もかも教えろ。そして、私に確信させてくれ。君という存在を。そして……

(晒したい。壊れた仮面の中は酷く息苦しい。)

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